烙印

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 5年前に俺は傷害の罪で刑務所に入った。ごくごく普通に23歳を過ごしていた俺には、予想だにしない出来事だった。不本意な扱いを受けて、何処か作り物めいていた社会に投げ込まれた俺は、現実を受け入れられないまま受刑者の底辺に位置付けられた。  楽しみがない連中にとって、俺はうってつけの玩具(おもちゃ)だった。肉体的にも精神的にも、小さなナイフで癒える間もなく傷つけられる感覚。もう限界だと思った時、(ごう)さんが声をかけてくれた。  刑務所の中でも性犯罪者は軽蔑され疎外される。その逆に、妹を暴行した少年たちを意識不明にさせた剛さんは一目置かれていた。もともと人望を得やすい人だった剛さんが、兄弟のように接してくれた事で、俺のムショ生活は一変した。看守の対応も良くなった。  おかげで俺の心は闇に染まらずに、堅気(かたぎ)の気持ちのまま出所する事ができた。でも出所してからの現実の方が闇が深かった。常に前科が付きまとい、以前のような生活を社会は許してくれなかった。いっそ闇に手を染めた方が楽だと何度も思ったが、俺は身分の関係ない日雇いバイトを転々とすることで、何とかの日常を保っていた。  1年前、出所した剛さんが俺を見つけ出してくれた。フランチャイズのレストランをやるから来ないかと言ってくれた。でも俺は焼き鳥屋をやっていると嘘をついて断った。  剛さんは前科をものともせずに表舞台に立てる人だ。それだけの行動力も人望も持っている。俺の存在はいつか剛さんの足を引っ張る事になる。だから距離をおいた。
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