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唇 ドアの鍵
午前10時過ぎ。
トイレから出ようとパンツを上げようとした私の目の前にあるはずのドアノブがない。
いや、ドアノブはあるのかもしれないが、見えないのだ。
とりあえず落ち着いてズボンまで上げてトイレの水を流し、
便器の蓋の上に座ってみた。
何度瞬きをしても <それ> はある。
本来だったらドアの鍵がついているドアノブの表面と言ったらいいのか、
その部分にドアノブサイズの <唇> があった。
おかしい、さっきまでは普通のドアノブと鍵だったはずなのに……。
今私の目の前にあるのは、薄いピンク色をした分厚めの唇。
某ハリウッド女優並に厚い唇が目の前に現れたのだ。
じっとみつめていると動いた。
唇を前に突き出しては引っ込め、突き出しては引っ込め……。
薄っすら空いた唇のその奥が見えた。
どうやら歯はなさそうだ。
しかし、唇に触れたくない……。
唇に触れずにドアを開けることはできなさそうだし、
外から開けてもらうしかないか……。
外側のドアノブは普通なのだろうか。
「ねー!!トイレのドア開けられないから開けてー!!」
私はトイレから少し大きめの声を出して言った。
何度かそう叫んでいると妹が来て、開けてくれた。
「鍵壊れたの?」
「いや……ドアノブが唇で」
妹は意味が分からないという顔をしていたが、
私も同じ立場だったら何言っているんだ、と思うだろう。
それから母達にもこの話をしたが、当然誰にも分ってはもらえなかった。
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