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1週間後の深夜、再び唇は現れた。
その日も前回と同じ薄いピンク色の分厚い唇。
やはり唇を突き出したり、引っ込めたりを繰り返している。
眠さで少しぼーっとしていた私は、こういう深海生物いそうだなあ、
と思いながらその唇を眺めていた。
私は夜間トイレに入るとき少し扉を開けてはいる癖があるため、
今回は誰かも呼ばずに無事にトイレから出ることができた。
またその3日後の昼。
3回目にもなると次第にあの唇が可愛く思えてくる。
この唇はドアノブの表面についているものなのか、
それともドアノブ自体が唇になっているのか。
気になった私はドアノブを上から覗き込んでみた。
表面についている……。
唇はドアノブの表面、鍵の部分にくっ付いているだけだった。
試しに私は親指と人差し指、中指でドアノブの根元をつかみまわしてみた。
トイレから無事に脱出成功。
それ以来、唇が現れてもちゃんとトイレから出られるようになった。
どうしてトイレのドアノブに唇がくっ付いているのか。
どうして唇を突き出したり引っ込めたりしているのか。
理由など全く分からないけれど、
私はいつかあの唇に真っ赤な口紅を塗ってみたい。
そう思って今日もトイレへ入るのだ。
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