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「旧校舎の怪談、知ってる?」
七月。放課後の教室。
俺が現文のプリントを教えてやっている最中だというのに、猫宮まなつはそんな話題をふっかけてきた。
猫宮まなつとは、俺の隣の席の女子生徒である。
彼女は常に眠たげな目をしており、半袖のパーカーを着ていて、授業は大抵机に突っ伏して受けている。
七月の初めの席替えで隣になり、特に話題もきっかけもないため数週間は全く口をきかなかった。
そして先日、彼女はすこぶる簡単だと言われる現国の中間考査でクラスで一人だけ赤点をとり、特別課題を出されていた。
その課題を終わらせれば、夏休み中の国語の補講は免除してやると現国教師から言われているところを見かけた(おそらく教師も夏休み中になるべく出勤はしたくないのだろう)。しかし、彼女は頭が悪すぎてその課題の提出もままならなかったようだった。
のたくたしているうちに終業式は明日にまで迫り、さすがに補講対象者が猫宮まなつ一人だけなのに、わざわざ夏休みに補講を開くのは教師自身、嫌だと思ったのだろうか。
「友達とかだれかに教えてもらって終業式までにできるところまでやって提出してね」と慈悲のあるお言葉をいただいたのに、猫宮まなつは「友達は一人もいないです」と自らの悲しい現実を言ってのけた。
そして、しびれを切らした教師は、一時間ほど前、帰りのHR終了直後に疲弊しきった顔で俺に言った。「猫宮さんに現文のプリント教えてあげてくれない?」と。
よって、俺はいまさっさと帰宅したい衝動をこらえながら隣の席の猫宮まなつに現文を教えてやっているというわけである。
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