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職員室に行って、プリントを提出すると、現文教師は「よかった……!!」と猫宮が解いたプリントを胸に抱きしめていた。そんなに補講を開きたくなかったのか。
そして俺と猫宮はご褒美と称してバニラアイスバーをもらった。
ほかの生徒に見つかったらまずいからと、職員室の隅の応接スペースで隠れるようにしてそれを食べた後、俺たちは一緒に職員室を出た。
「さっきの話だけどね、縄の音を聞いた人は呪われちゃうらしいよ」
俺と同じく昇降口を目指して、隣を歩く猫宮がまたその話題を持ち出してきた。
「呪われるって……」
小学生の怪談と同程度に抽象的な表現である。縄の音がどうたらこうたらというのは聞いたときはちょっとビビったが、よくよく考えてもみればそれほど怖くはないのかもしれない。不可解であることには変わりないが。
「あ、呪われるっていうか、正確には呪い殺されるの。その音を聞いた人は、どうしてだかとても首を吊りたくなるんだって。それで最後には、姉妹の霊と同じように首を吊っちゃうんだって」
「……なあ、もうその話はやめにしないか」
具体的に説明されると、なんだかとても怖く思えてきたじゃないか。猫宮のバカっ。
「姉妹で行くと、姉妹の霊と波長が合いやすくなるから音が聞こえる確率が上がるって」
「やめないかって言ってるだろ。というか、お前は姉妹でそんな場所へ行くつもりなのか? 第一、お前、姉か妹がいるのか?」
「いないよ。一人っ子。きみは?」
「俺もだ」
「ふーん」
……この女は、俺に妹か姉がいたら一緒につれていこうとしたに違いない。
こいつが、急にそんな怪談を話してきた理由がようやくわかった。他人の姉か妹を借りて、あたかも自分の姉妹であるかのようにして旧校舎へ行くつもりだったのだ。
そうすれば、心霊体験に遭遇できる確率が上がる。こいつは怪談を話している間もずっと無表情だし、口調は淡々としているしで全然こわそうにしてない。
恐らく、音を聞いたとしても呪い殺されるだなんて信じてないのだろう。ただ、スリルを求めているだけなのだ。
「残念ながら、俺には姉も妹もいないからな。行きたいのなら一人で行ってくれよ。そんな小学生レベルの怪談、全く怖くないからな」
俺が見栄をはってそう言うと、
「ふーん。じゃあ、きみでいいよ。一緒に行ってくれる相手が一人いればそれでいいの」
と、猫宮は無表情で返してきた。
「……は?」
「だって、小学生レベルの怪談なんでしょ? まさか高2のくせに怖いとか言わないよね?」
「…………」
俺は先ほど、素直にこわいと言わなかったことを心の底から悔やんだ。
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