ラストゲーム -夏の日の少年-

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*  二年前の夏、横浜第一高校のエース・二宮は高校一年からエースとなった。強豪ひしめく神奈川をシニアリーグ時代からバッテリーを組む鈴木と共に席巻し、同校初の甲子園出場の原動力となった。  注目の一年生左腕として挑んだ甲子園、その初戦の相手は大阪翔院高校だった。大阪翔院は、決勝に調子のピークを持っていくべく、この試合はどこか調整の雰囲気を持っていた。神奈川を勝ち抜いたといっても強豪同士がブロックの反対側で潰し合い、横浜第一はフロックでの勝ち上がりに過ぎない、大阪翔院メンバーはそう思っていた。  これに対し、横浜第一はこの試合にすべてを費やすべく、大阪翔院の試合映像を穴が空くほど観てきた。あらゆる角度から分析し、守備陣も徹底した対策を練ってきた。  その甲斐もあり、横浜第一は慎重な立ち上がりだった大阪翔院の三番手投手・稲葉から早々に一点を先取した。  二宮も決め球であるスライダーが冴え、彼を舐めていたとはいえ強打の大阪翔院を序盤三回をノーヒット、五つの三振を奪う好投を見せていた。  もしかしたら無名の横浜第一が優勝候補の大阪翔院に勝つこともありえるのではないか? そんなざわめきも出始めていた。  しかし、七回に六番・平松のソロ本塁打で大阪翔院は同点とした。そのまま同点のまま試合は進み、九回裏は八番からの攻撃となった。  既に体力の限界を二宮は迎えていたが、彼の代わりの投手など横浜第一にはいなかった。先頭打者に四球を与えたとき、にわかに甲子園の魔物は目を覚まし始めた。
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