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「いらっしゃいませ〜」
店員が近づいてきて商品の説明をしようとしてくるのを避けて、ロボットを眺める。
店に入ったとき、ペッパー君がいて驚いた。色々なところでAI化を感じる。
「可愛いですよね。この子とかどうですか」
小村は茶色い毛玉のようなものを指差す。すかさず飛んでくる店員を無視して、商品を眺める。
毛玉に尻尾が生えている。これが鳴いて癒やしてくれるらしい。……これで? 確かに手触りは良さそうだが……。
「猫じゃないですけど、このペンギンも可愛いですね」
小村は、ペンギンの写真を示す。値段は二万円弱。見た目がぬいぐるみだ。可愛いけれど、これを家に置いておくのは恥ずかしいな。
「ちょっと高めですけど、この白い猫のロボットとか……」
今度は本物の猫ほどの大きさのロボットを指す。こうしてみるとたしかに可愛いし、癒やされるんだろうな……。にしても値段が高い。仕方がないのかもしれないけれど。
「てか、ロボットを可愛がっていて虚しくならないのか?」
小村と店員が同時にこちらを向いた。怖い。
「「虚しくなりません」」
小村がすごい目つきで顔を凝視しながら言う。
「いいですか伊塚さん人間は本来一人ぼっちだと孤独感を感じるんです何かあった時は特に自分が一人だということを実感させられますけれどこうしてロボットがいると一人ではないという安心感があります大体長い間一緒にいれば愛着も湧くんです伊塚さんだって長年使ってきた手帳なんかは捨てるに捨てられなかったりするでしょうそういうことです」
よく息継ぎをしないでその量の文章が言えるな。
店員もすぐに喋りだす。
「このお方のおっしゃるとおりですだいたい今は各社が工夫に工夫を重ね人が愛着が湧きやすいようなロボットにしているんです技術面でも日々進化していますし年々ロボットの動作はなめらかになっています鉄腕アトムには心がありましたがいつかそんな心を持つロボットすら作れるのではないかという期待を抱くほど今のロボットはすごいです」
そして、二人で声を揃える。
「「ですから虚しくなりません」」
怖いな。
「わ、分かったから。取り敢えず今日は少し考えさせてくれ。いろいろ調べてみたいし」
小村は少し考え込んで、うなずいた。
「分かりました。では、明日また来ましょう」
店員は夢から覚めたような顔で、商品の紹介を始める。しつこい。
「帰ろう」
小村を連れて店を出る。
小村は俺の顔を少し見て、それから息を吐くと
「やりすぎましたかね……ごめんなさい」
と謝った。謝ることはない。なんにしろ癒やしロボットに興味を持つことが出来た。
「謝らなくてもいい。ロボットについて知りたくなってきたし」
小村は嬉しそうに笑うと、頷いた。
「はい。さあ、帰りましょう」
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