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2.伊塚さんオンパレード
「ちょっとー、伊塚さーん」
後ろの扉の向こう側からくぐもった声で名前が呼ばれる。まあ、どうせ小村はしょうもないことしか言わないだろう。
「布団が吹っ飛んだっていうじゃないですかー。あれ、相当強く吹き飛ばしたんでしょうね―」
何を言ってるんだ。
「仕事しろ、仕事!」
振り返らずに叫ぶ。
「はいはい。……まっず! うわあー! さっき買ったコーヒーが苦いとも甘いともつかない微妙なところでまずいー!」
「さっき出てた広告の仕事中にのんで効率アップー! みたいなエナジードリンクはうまそうだったぞ」
「ああ、あれまずかったですよ。この前仕事中に気分転換に新しいやつ買おうと思って買ったんです」
飲んでめちゃくちゃまずかったら仕事の効率が落ちるんじゃないだろうか。
「どんな味だった?」
「チョコミントアイスを百倍くらいに濃くしたやつに腐った甘納豆を入れたみたいな味でしたー」
それが分かるってことは、小村はチョコミントアイスを百倍くらいに濃くしたやつに腐った甘納豆を入れたものを食べたことがあるってことになる。
何の話だ。
「話を逸らすなよー」
「伊塚さんがそらしたんでしょー」
……そうだっけ。いや、ここは威厳を見せておこう。
「そんなことはない! そりゃあもちろん絶対とは言い切れない。そもそもこの世界で絶対というのはとても証明しにくい。例えば絶対にないことは証明できない。悪魔の証明とか言うらしい。悪魔といえばゼロだな。数字のゼロはそれで割ってはいけないものとして有名だ」
何を言おうとしたか忘れてしまった。
「まあとにかく真面目に働いてくれ」
部屋から忍び笑いが聞こえてくる。なんか恥ずかしいな……。
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