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「伊塚さん、お疲れ様でーす」
小村が扉から顔を出して呼びかけてきた。やっと終わりか。今日は木曜日だけど、一週間の中で一番やる気がでないのは木曜日だろう。やっぱり。週の真ん中という微妙な立ち位置のせいで、まだ半分残っているという気持ちになる。日曜日のことを考えようとしてもその次にやってくる月曜日が気持ちをさらに暗くする。
「疲れたー」
うめき声とともにそう言うと、小村が笑いながら頷く。……笑顔に癒やされる。
「じゃあ帰りますね。鍵はかけていきますけど、伊塚さんが出るときにもかかってるか確認してくださいね」
そう言って小村が玄関へ向かう。見送ろう。夜道は危険だからな。
「じゃ、おつかれ。気をつけて帰ってね」
「はい」
ごくっ。
いやまっず。まずい。なにこれ。口の中でチョコミントアイスを百倍くらいに濃くしたやつに腐った甘納豆を入れたみたいな味がする。なんならもっとまずい。
小村は「はい」と言い流れるような動きで俺にエナジードリンクを渡してきた。くそ、自然すぎて気づかなかった。
「……謀ったな、小村!」
小村はにやりと口角を歪める。
「注意散漫ですね。昨日の夜飲んであまりにもまずかったので、伊塚さんにも飲んでみて欲しくなりまして」
そういうと小村は小走りに駅の方に向かっていく。
絶望的な不味さを打ち消すものを求めて亡霊のように歩き回る俺を、ネオンサインが明るく照らした。
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