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4.猫のイーちゃん
「いーづかさん」
昼下がり、窓の外をぼんやり眺めていると頬になにかふさふさしたものが触った。
「うぇ!? ああ、猫か」
小村が黒猫を抱えて俺の前に移動する。なんだかにやにやしている。こういう顔をしている時は、なにか悪いことを考えている。
この間、こういう顔をしているから何かと思ったらいきなり甲虫を肩に載せられた。弁当屋の前で。曰く、驚かせようと思ったらしい。驚いたけど。
「そうです、猫です。この子は私の家で飼っているイーちゃんです」
そう言うと、小村はにっこりと笑っていきなりイーちゃんを近づけてきた。
「ちょちょちょ、ちょっと待て。いきなりどうしたんだ」
小村は笑顔のまま答える。
「どうって、動物とふれあうんですよ。別に伊塚さん猫アレルギーでもないみたいですし」
そういう問題ではない。まあアレルギーではないけれど。
「そうじゃなくて、なんでそんな唐突に猫と触れ合いコーナーを始めようとしてるんだ」
ため息をつく。視界に猫の金色の瞳が入る。黒い猫で目が金色って珍しいのかな。猫は詳しくないからな……。
「気になりますか、この子。ボンベイっていう種類です。可愛いですよね〜」
俺の質問をさらっと無視して小村が言う。そんなに計画を明かしたくないのか。
「分かった分かった。触ればいいんだろ」
ゆっくり手を伸ばす。イーちゃんは大きな金色の瞳で見上げている。黒目が細くなっていて、金色が目立っている。
こういう時はどこを触るんだろう。引っかかれたりするのは勘弁だ。
「えっと……」
小村を見ると相変わらず怪しい笑顔で見つめている。ああもう、なるようになれ!
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