金の十字架(クルス)

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金の十字架(クルス) 一  妙は道なき道をひた走る。姉として弟との追い駆けっこで負ける訳にはいかない。後ろを振り返ると、弟の心太はまだまだ離れてはいたが確実に間合いを詰めつつあった。  すぐ横の岩の突き出た崖を見た。ここなら岩に手を掛けて体を持ち上げれば上に登れる。そう判断した。  岩の最上部の出っ張りを手で掴む。気合いを込めて手を曲げ同時に体を持ち上げた。 体が上に持ち上がる……はずだった。 「きゃあっ!」 体が後ろに反れる。自分に何が起きたのか判らないまま後ろ向きに地面に落ちた。 「姉ちゃん!」 驚いた心太が大急ぎで駆け寄る。幸い高さが余りなかったのと、地面が柔らかかったお蔭で怪我をせずに済んだ。 「痛たたたた」  背中を擦りながら自分が落ちた崖を見る。驚いたことに岩がなかった。正確には岩が土から剥がれて妙のすぐ横に倒れていた。 てっきり大きな岩だと思っていたらそれは薄い一枚岩だったのだ。 「なんだ? この岩ペラペラじゃん」  呟く心太の横で、崖の正面を見た妙は思わず叫んだ。「あれっ!?」
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