Rainy Distance

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 それからどのくらい泣いていただろう。外の雨にも負けないジメジメ具合で、ベッドに力なく横たわる様は、まるで塩をかけられたナメクジのようである。……いや、ナメクジは雨が降るとむしろ元気になる生き物のはずだが。  何度目かわからない溜め息をついて寝返りを打つと、不意にスマホが鳴った。潤んだ視界に見えたのは『Haru』という見慣れた文字。コウはたちまち飛び起きて電話に出た。 「もっ、もしもし!」  しばらくナメクジになっていたために声が掠れ、覇気がない。少しの間があった後、スマホの向こうから静かな声が聞こえてきた。 『もしもし、コウさん? 今、大丈夫? ……ていうか声どうかしたの?』 「あ、ううん! どうもしないよ、大丈夫。ハル君こそどうかした?」  多忙な恋人がわざわざ連絡をくれたのだ。声が聞けて嬉しいとか、もっと可愛げのあることが言えないのか、と己に腹が立つ。壁に頭を打ち付けたい気分だ。 『いや、そういうわけじゃないんだけど……。家で勉強していたら、いつの間にか雨が降り出してたんだ。それを見ていたらね、なんだかコウさんが泣いているような気がしてきて……』 「はい!? な、なんで──」  あまりの驚きに絶句すると、ハルは慌てて『うわぁ、ごめんなさい!』とかぶせてきた。 『そんなわけないよね……。いつも寂しくて会いたくなるのは僕のほうだし、実際今もそうだし。本当は僕が泣きたい気持ちだったのかも……。ごめん、カッコつけた』  彼らしい素直な吐露に胸中を占めていたネガティブなものが霧散する。笑い合うと一瞬でいつもの二人に戻れたのがわかった。 「実は私、ハル君に会いたくて泣いていたところだったの。だからびっくりして……。急にどうしたんだろうね? やっぱり雨のせいかな」  その告白にはハルも驚いていたが、お互いが同じ想いだったのだと知ると、テレパシーか以心伝心のようで嬉しくなる。しばし交わした近況によれば、実習は今週で終わるらしく、週末には久しぶりに気兼ねなく会えることになった。 『じゃあ、金曜日にね。……ああ、こっちは雨が止んできたみたい。そっちはどう?』  コウが外を見やると、いつの間にか雨は止んでいて、初夏らしい晴れ間が広がっている。 「うん、こっちも晴れてきたよ」 やっぱり雨は嫌いじゃない。 むしろ、好きだ。 【おしまい】
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