Rainy Distance

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 今頃ハルはどうしているだろう? 今日は日曜日だから実習は休みのはずだ。家で勉強しているかもしれないし、日頃の疲れで爆睡している可能性もある。或いは溜まった家事をこなしているとか。いずれにしろ彼は将来の目標に向けて懸命に頑張っているところなのだ。コウが『会えなくて寂しい』などと伝えれば、優しい彼は間違いなくすべてをなげうって飛んでくるだろう。そんな手前勝手な邪魔は絶対にしたくないし、してはならない。  寂しさを紛らわせようと、スマホに保存されているハルの画像や動画を眺めていると、雨音はザアザアと強さを増してきた。 「駄目だ……」  ギターを爪弾いている横顔、艶やかな歌声、優しい笑み。慰めになるどころか余計に寂しさと愛しさが募って仕方がない。そういえば雨が好きだと話した時、ハルはポジティブな反応をくれた数少ないうちの一人だった。 「ボブ・マーリーは『雨を感じられる人もいれば、ただ濡れるだけの奴らもいる』って言ったんだよ。コウさんは感じることができる方の人なんだね」と。 『雨雲になれたらいいのになぁ。それなら気付かれずに顔を見に行けるもの。まっすぐ最短距離で進めるだろうし、電車やバスにも乗らなくていいし……』   らしくもなくセンチメンタルなことを考えていると、ふいに涙がポロリと零れ落ちた。どうやら自覚している以上に弱っているらしい。 ハルに出会う前の彼女は恋愛よりも大切なもの、優先すべきものがあると信じていた。そんな過去の自分からすれば、今の自分は苦笑いの対象でしかない。けれどもこれが現在のコウだ。ハルと出会って、彼女は変わった。
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