Rainy Distance

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いつの間にか雨がポツポツと降り出していた。 雨は嫌いじゃない。むしろ好きだ。 そう言うと大抵の人は怪訝な表情をする。お出掛けの計画が台無しになるとか、洗濯物が乾かないとか、ヘアスタイルが決まらなくなるとか。確かに同ずるものばかりだが、それでもコウは雨が好きだ。  子どもの頃から多感過ぎた彼女にとり、世界はあまりにも煩雑で目まぐるしい。だから、降り注ぐ雨が銀色の天幕のごとく辺りを包み込み、光りや音がトーンダウンすると、彼女は生きづらい現実から優しく隔離されていくような感じがした。かといって完全な隔絶ではなく、不思議と心が落ち着くのだ。草木や大地が雨で潤った際の独特の香りや風情も良い。自分も含めたすべてが洗い清められ刷新されるような心地良さがある。  スマホで天気図を確認すると、発達した低気圧はコウが住む県だけでなく、隣県にまで広がっていた。すぐに離れて暮らす恋人のことが気にかかる。 大学生のコウはいつもと変わらぬ単調な日常を送っているが、理学療法士を目指す専門学校生のハルは現在臨床実習の真っ最中だ。物理的にも精神的にも多忙を極めているだろうし、どちらかといえば不器用な性格である彼は、何事も一局集中で臨むタイプである。それだけに「しばらく会えないかも」という話題になった時は思わず泣いてしまった。コウではなくハルのほうが。
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