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僕は思う。
――こんな物があるから、僕は母にも妻にも卑下され、自由すら奪われて窮屈な思いをしている。
また、腹が立ってきた。
――こんな物さえなければ、僕はもっと自由に、かつ不自由なく生きられる。
どうせ畳めもしないのだから、使いたくもないものを持ち歩く必要なんて、無い。
そう思い、いっそ鞄の中の折り畳み傘を社内のゴミ箱にでも捨ててやろうかとも考え、鞄のジッパーを開けた。
もう、思い出すと辛い。
――僕の自由を奪っているのは、折り畳み傘そのものと、いつまでもいつまでも前に進まず折り畳み傘を持ち歩くという、この行為そのものだ。
しかし、いざ鞄の中の折り畳み傘に触れると、やはり躊躇は生まれる。
幾度となく捨てようと思ったが、やはりいつも、躊躇する。
――本当に、捨ててもいいのだろうか。
僕は思う。
たぶん一番腹が立っているのは、もう僕には傘を畳んでくれる人は誰もいないということだ。
折り畳み傘を捨てることも、持ち歩かないことも、あの人達との思い出を失うことのように思えている。
それこそが、きっと僕を不自由にしている。
――可能であれば、また不器用な僕を笑いながらなじって欲しい。
でも、もう無理なのだ。
腹は立ったが、僕はもう、彼女達に腹を立てることも叶わない。
――僕は一体いつ、綺麗に傘を畳めるようになるんだろう。
突然の雨音は、いつもそうだ。
いつも僕に現実を叩きつけてくる。
だから僕は、雨が嫌いなんだ。
〈了〉
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