いつも心に備え付ける

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 しかし、腹を立ててばかりいても退勤時間はやってくる。  このままでは折り畳み傘を使わざるを得なくなってしまうので、僕は打開策を考えた。  ――例えば、コンビニで傘を買えばどうだろう。  たぶんそれが一番手っ取り早い。  しかし考えると、折り畳み傘を持っているというのに、わざわざ傘を購入するのも勿体ないし、なんだか(しゃく)にも触る。  別の言い方をすれば、負けた気になる。  つまり傘を買うという選択肢は無い。  ――であれば、会社の傘立てに刺さっている、明らかに誰かが置きっぱなしにしている古い傘を拝借するのはどうだろう。  しかし果たして本当に持ち主が不在の傘なのかは判断できない。  それに、折り畳み傘さえ持っていない誰かが、本当に困ってその傘を使用したかったのに、僕が持っていってしまったものだからその誰かがズブ濡れになってしまうという可能性もある。  折り畳み傘を持っている僕が、人を貶める可能性もある行為を行うことは、それはもう良くないのではないか。  ――つまり。  僕は少し考えをまとめる。  ――僕は折り畳み傘を持っていることで、むしろ行動を制限され、傘を買うことも拝借することもできないことになっているのではないか。  そう考えると天気予報や人類の精神構造やら雨なんかではなく、折り畳み傘そのものを憎まざるを得なくなってくる。  ――本当になんなんだ、折り畳み傘って。
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