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雨の音がする。
雨は、嫌いなのに。
暫く経っても音は続いている。
エアコンの駆動音なのか、夏の始まり特有の駆け足の雨なのか、パソコンの前に座ったままでは判別は難しい。
しかし遠目に見る窓の向こうは、この季節の5時半の空にしては暗かった。
おそらく雨が降っている。
それも、ビルの中にも響くくらいの雨音で。
つまり、それなりに雨が降っている。
僕は固定電話の液晶画面に表示された時刻を確認した。
何度見ても、5時半。
終業まで、あと30分。
通り雨の可能性もあるが、おそらく、30分では上がらないほど激しく雨が降っている。
しかし、こんな日に限って、残業してまで行う仕事が無い。つまり雨が上がるまで仕事で時間を潰すという手段が取れない。というより、雨のために会社に足止めされるなんて、ごめんだ。
むしろ雨さえ降っていなければ今すぐにでも帰りたい。
――しかし、傘が無い。
いや、厳密に言えば、傘はある。
折り畳み傘はある。
鞄の中に、折り畳み傘がある。
――しかし。
しかし、使いたくはない。
――僕は折り畳み傘を、上手く畳めない。
生来不器用で根気も無い僕には、折り畳み傘なんてどう頑張っても綺麗に畳めないのだから、極力使いたくなんてないのだ。
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