ルサンチマン

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「うなされている声が聴こえたんで。」 民宿ひら川のバイト土井みゆき23歳が入ってきた。 「ありがとう。 いや、疲れてたみたい。」 「心配したよ。これ麦茶。 じゃあ、ゆっくり眠って。」 みゆきは長い髪を後ろに結び、浴衣姿であった。 「グッタリして、変な夢見てた。」 みゆきの親切な気持ちが嬉しかった。 朝、民宿ひら川の食堂でワカメと油揚げの味噌汁、ご飯、ヒラメの煮付け、ほうれん草のおひたし、厚焼きたまごが出されてた。 みゆきが忙しく、食事を運んだ。 「柔らかくて美味しい。」 安藤は口に運んで味わった。 「ありがとうね。 九州の魚は美味しいんよ。」 女将の平川逸子57歳が言った。 グレイヘアのショートでサッパリした物言いをする女将だ。 「あんちゃん、どこの人?」 逸子は安藤に尋ねた。 「八王子です。 東京の外れ。 駅から離れると山に囲まれた町です。」 安藤はまた嘘をついた。 「良さそうなとこだねぇ。 空気が気持ちいいだろ。 名前は?」 逸子は尋ねた。 「立花哲二です。」 安藤は思いつきの偽名を言った。 「じゃあ、てっちゃんだな。」 逸子は微笑んだ。 「味噌汁おかわりどうだい?」 「頂きます。 女将さんの料理すごく美味しいです。」 逸子は味噌汁をよそって、安藤に渡した。「なんでこの島に来たんだい?」 「放浪の旅です。 日本各地を一人旅してます。」 安藤はナチュラルに嘘をついた。 「いいねぇ。 若いうちの経験は宝だよ。 だから、よく日焼けしてるねぇ。」 キップのいい逸子。 安藤はその優しさに救われた。 みゆきがブラウンのセーターにジーパン姿でテーブルに座った。 みゆきは味噌汁を飲み、厚焼きたまごを口に入れた。 「みゆき、このあんちゃん、旅人らしいよ。東京の八王子からやって来たんだとよ。」 みゆきはご飯を一口食べた。 「放浪記かぁ。」 みゆきは笑った。 「えらい遠くだなぁ。」 みゆきはかれいを箸で摘んだ。
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