夢の中で

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夢の中で

こんなに虚しい……勝利は初めてだ。       モンスターと人間が激しく衝突した場所を空から1つの影が見つめる。 草木が生え、黄土色の土が覆っていた恵みの大地は……数多の人間の屍が積み重なり腐乱を発する死の大地へと変貌を遂げた。 空を駆けこの大地を見下ろす一匹の龍は自身の心に穴が開いたような感覚を味わう。  死の大地を抜け瓦礫と化した人間達の街に大きな翼を広げ、とあるモンスターが降り立った。 黒く染まる荒々しい逆鱗は不気味に月光を跳ね返す。     人類に勝利したモンスターの世界では大半の者が『ある龍』の見解に賛成だったが異論がある者がないわけではなかった。     果たしてここまでやる必要があったのか?。     身体を人間態に変えた一匹の古龍は星々が煌めく夜空を見上げる。 今日の星はいつもより鮮明に見える……原因はすぐわかった。  「人間達の灯りが殆んど破壊されたからか」     攻められたら力が無き者は淘汰を辿り、力がある者は抵抗し返り討ちにして勝利を納める。         『弱肉強食』         昔から変わらぬ絶対の真理だ。 彼の『エスカトンジャッジメント』は名の通り数多もの人間に審判を下し命を奪った。           「どうしたのですか夜空を見つめて。あなたが感傷的な心を持ち合わせてるとは……」  中性的な顔立ちの青年が、意外そうに少年に話しかけた。     「お前もっと包んだ言い方しろよミラオス。人を化け物みたいに言いやがって」     クスっ、とミラオスは笑う。       「事実我々は人間から見れば化け物に変わりはないですよ。特に私達はね」     「……化け物だから今回の人間の襲撃に反撃する戦線を関係ない人間の村や街にまで延ばし動けない老人や右も左も分からない子供や赤子まで手にかけたと言うのか?」  「それが彼の戦いのポリシーなんでしょう。アルバ……私的にはあなたの意見も分からなくもありません。ですが戦争に於いて禍根はまた次の争いを呼びます。これで良かったのですよきっとね……」   「そう…か…」     グラン・ミラオスの言葉にアルバトリオンは無表情でじっと地面を見つめた。       「私は厄海に戻ります。おやすみなさいアルバ」     「あぁ、おやすみミラオス」     瞬間移動を使い一瞬でミラオスは姿を消す。  あいつが見た繁栄し高度な文明を持つ他世界の人間達に攻めるのは今日より2日後か……また関係ない人間が大勢殺されちまうんだろうな。 ミラオスの言うようにモンスターである俺が人間を…それも他世界の者達を気にするなんて……。           「……俺は感傷的になったのか?」   …… ………… ……………… …………………… 学校が終わり明日から土日休みとなる金曜日。 散々遊び尽くした伊里愛三姉妹は帰路の道についていた。   「やっぱ姉妹でおそろのキーホルダーっていいよね~」   彼女らの手持ちバッグには可愛くデフォルメされた犬のキャラクターのキーホルダーがつけられていた。 容姿は似ても考え方が異なる3人の数少ない共通する好みだ。   「ふふ、本当ね」   「うん。凄く可愛い!」 月曜日理雄君が見たらどんな反応を示すかな。   理雄は男の子だからこういうキャラにはあまり興味を示さないかもしれない。 男の子はヒーローや格好いい物が好きなのだから。   キーホルダー可愛いねって言って貰えたら嬉しいけど……高望みはしない方がいいよね。 「玲里ったらキーホルダー見つめて顔赤くして何考えてるのかな?~」     「えっ!?」     悪戯な笑みを浮かべ訊ねる桜花に玲里はびっくりしながら顔をあげる。   顔……赤くなってたのかな?。 キーホルダーに夢中で全く分からなかったが自分の顔に触れるとほんのり暖かさを感じた。 恥ずかしさを感じさらに顔が赤くなる……。       「あははは!玲里はわかりやすいね」   「こら、あんまりからかうんじゃありません桜花。玲里は貴女と違って純粋な子なんだから」   「ひっど……私が不純みたい」     「そこまでは言ってないわよ。まぁ少し貴女はデリカシーを持って欲しいとは思いますけどね。貴女だって根はいい子なのですから」 今度は桜花の顔が真っ赤に染まる。 まるでりんごだ。 「言い方恥ずかしいよ……姉貴」   小声で呟くと、前も見ず走り出した。     「行っちゃったね桜花お姉ちゃん……」     「ふふふふ、そうですね。『繊細』って言葉も付けておくべきだったかしら?」 やっぱり、瑠奈お姉ちゃんは私と桜花お姉ちゃんのお姉ちゃんだ……。     桜花を軽くあしらい笑う瑠奈に玲里は改めて長女の威風を感じさせられた。                 帰宅し、勉強、食事、入浴を済ませ床に入った玲里はこの日不思議な夢を見る……。         ……ここは。     真っ暗な底の見えない空間で玲里は目を開けた。 瞼を閉じても開いても変わらないほど暗い空間だ。       最後に布団に入った記憶があるから、これは夢?。       思い返しながら歩いていると、ボワァと前方に真っ白い光の塊が現れた。       「眩しいっ……!」     手で目を守る玲里に光の塊は一歩一歩近づいてくる。 光が此方に近づくにつれて光を出してる者の正体が見えてきた。 真っ白なドレス、赤い双眸、華奢な身体に、人形のような肌……。     「女の子……?」       なんて、綺麗なの……。     光の正体は玲里と同じぐらいの年頃の少女だったのだ……あまりの美しさに同じ女である令里が思わず見惚れてしまいそうになりそうな。     そのぐらい少女は可憐で美しい。     「伊里愛玲里ちゃん、だよね?」     「う、うん。どうして私の名前を……」   「貴女に興味を持ったから私の能力で見たのよ。貴女と貴女の仲間達の名前を」     能力?。 それを用いて自分と仲間達を調べたと言うのか、この少女は本当に何者なんだろう。       「単刀直入に言えば、コレを貴女に託しに来たのよ」   白いドレスの少女は緑色に染まった2つの勾玉を玲里に渡した。   「これはなに?」     「近い日にその勾玉を使う日が来るわ。この世界を守るためにね。また会いましょう玲里ちゃん」     「きゃあ!!」 その言葉を聞いた直後に玲里の姿は空間から消えさる。         『種は蒔いたわよラース』         一人残った空間で白いドレスの少女はポツリと呟くと笑いながらこちらも姿を消した。       翌日目を覚ますと、玲里の身体は汗で濡れていた。   「随分と不思議な夢だったなぁ……この世界を守るためにとか、夢にしても大袈裟だったけど」     ベッドからおりようとした時、自分の右手にある『固い物』が握られてることに気付いた。 「嘘っ……」       ゾクリ、と寒気が走る。       彼女の右手には夢で貰った2つの緑色の勾玉が握られていたのだ……。 形は夢で見たのと全く同じだ。
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