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氷獄に舞う雪と貴人
「渡りの凍て地か」
降り立った白銀の雪原を見渡して龍雅はそう声をもらした。
『モンスターの幻影』。勾玉使いならば全員が必ず持つ能力だ。同じ必ず発現するが宿す能力が様々な『固有能力』とはまた別の能力であり、この『モンスターの幻影』により勾玉使いは自身が宿したモンスターの生息域に自身と指定した者を現実世界から強制的に移動させる事が出来る。
「どうです。美しいでしょう?。煩わしい人間の依怙も憎悪も喧騒もない。あるのは極寒の地だけよ」
舞雪は地べたの雪を頬張りながら龍雅に語る。
勾玉によって引き起こされた『非現実』の世界が彼女を魅了してるのが少し見ただけで分かる。
「うふふっ‥‥!」
次第に口に含む雪が真っ赤に染まっていく。
もっぱら人でも捕食した白熊のように。
「勾玉の力は偉大だわ。どんなに怪我しても自傷しても必ず完治する‥‥‥なんて最高なのかしら」
蕩けたような顔をしながら舞雪は自分の舌を噛み大量に血を撒き散らしていた。
1秒にも満たない時間ですぐ舌は再生される。
「‥‥お前。気を違えているのか?」
病人に向けるような哀れな眼を向けられ舞雪は更に嬉しくなる。
蔑む目だろうが、馬鹿にする目だろうが‥‥‥‥、自分は他者の気を引いてると実感出来るのだ。
「ふふふ。キチガイではないわ。ただ皆の気を引き不幸にさせたいだけ‥‥貴方もよ。黒輝君」
「気安く!俺の名を呼ぶな!」
右手に纏った結晶から炎を放つが舞雪の前でピキィーンと凍りつき、そのまま地べたに落ちた。
煙を立て炎は完全に雪の中で消滅する。
「万物を凍らせるだけはあるな。益々ほしい」
「あら、嬉しい」
「貴様に言ってない」
「怒った顔以外と可愛いのね♡」
更に顔を顰める龍雅に舞雪は更に語る。
「ミ・ルって不便よね」
「なに?」
「その強さは確かに突出してるけど生息地に恵まれていないわ。塔や古跡じゃ何にも環境を利用出来ない。逆に私のイヴェルカーナは――――」
『雪を利用出来る』
舞雪の姿が猛吹雪と共に消え去る。
気配も全く察知出来ない。
「チッ!」
「あら、残念」
雪を隠蓑に直前まで狭って放たれた彼女の蹴りをすんでで躱す。
攻撃に当たらなかったのにその莫大な冷気とそれに齎された衝撃により龍雅は上半身に傷を負わされ、破かれた上着は瞬時に凍りつき何メートルか後退させられた。
「やってくれるな」
「あなたこそ。常に結晶に炎を宿したシールドを身体に纏わせてるのね。なければ一瞬で貴方は凍りついていたわ」
持久戦になれば龍雅が不利なのは目に見えている。
だが舞雪は躊躇わず持久戦を選び龍雅の防御能力を奪いに掛かるだろう。
「焦りを感じるわ。黒輝君‥‥」
妖艶な笑みを浮かべ舞雪はまた姿を消した。
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