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新たな母親
「おいで、花凛」
「はい。お母さん」
返事し死を纏うヴァルハザクことアリサの元へと花凛は寄った。
あれから一日、彼女らは高級ホテルの一室に宿泊していた。
「なんて華々しいのかしら綺麗な夜景ね」
「うん!」
部屋から見える外の景色は絶景だった。
ヘッドライトをつけ、かの迅竜のように眩い光の残像を牽きながら走る数々の車、明るいだけじゃなく妖しげに黄色い光の中に混じり赤や青の街灯など。元いた世界に比べてあまりにも発展した文明の街並みが彼女の目を奪う。
―――まるで陸珊瑚の台地みたいだわ。
あまりの華やかさに人間達との戦いの中、溟龍ネロミェールに連れられて休息がてら寄った陸珊瑚の台地が頭に浮かぶ。あそこも綺麗な珊瑚や貝があり大変綺麗な場所である。大自然と人工物と全く真逆なのに、美の表現に違いはあれ煌びやかな光景はあらゆる者を惹き付けるようだ。
「うぅん……」と花凛が眠たそうな声を出した。見ると、うつらうつらと首を上下に動かしている。
「お母さん……おねむ……」
「ふふ、分かったわ」
目を擦りながら言う花凛を頬笑みながら横に寝かす。
深々とした布団を掛け新たな母親となったアリサに頭を撫でられ花凛は嬉しそうな顔をしてベッドに横になりそのままアリサに付き添うように眠りについた。
―――ルーツ様の命令でこの子の母親をすることになったけど……。
本当の母親である桃花は瘴気に耐えられなくなりアリサが処分した。
満足に子育ても出来ず、戦うことすら出来ない。
欠陥品と言って何ら差しつかえなかった。
どういうわけかその欠陥品を愛する娘もいるわけだが。
ドスイーオスが行った殺戮でパニック状態に陥った遊園地でアリサは殺戮の魔の手が延びぬよう花凛を遊園地の外へと連れ出した。
「楽しかったね!アリサお姉ちゃん!」
「そうだね花凛ちゃん」
母親を殺した手で花凛の頭を撫でた。
それから遊園地の話を暫く続けるも花凛の口からこの場に居ない母親への言及がされることは一度もなかった。
無意識か、わざとかは定かではない。
しかし。散々娘に当たり散らしていた母親との今までの生活よりも今日のアリサと行った遊園地の方が確実に楽しかったと言えるだろう。
『アリサ、聞こえるかしら?』
「ルーツ様…」
突如頭に直接、禁忌の祖龍ミラルーツの声が響く。
『残念だったわね。せっかく捕らえたコマが一匹使いモノにならなくなっちゃって』
「脆い人間だから致し方ありません」
誰と話してるの~?と花凛が聞いて来たのでなんでもないよと言って、少し公園に行っておいでとすぐ近くに有った公園に行かせた。
フフっとルーツは嗤う。
『そうかもね。まぁ、まだ若いコマが一匹いるからそれほど気にすることもないか。けど簡単に死なれては困るわね』
楽しそうに、どうしようかしら?と悩むルーツの声が聞こえた。
まるで今日の晩ごはんは何にしようかぐらいの気楽さしか感じない。
『その子、母親を愛してたんだっけ?』
「はい。殺されかけながらも愛情は持っていたようです」
『ふーん。母の愛に飢える子か、分かったわ。アリサ。貴女その子の母親になりなさい』
「は?」
彼女は一瞬我が耳を疑った。
間を起きながら恐る恐る……本気ですか。と問う。
『本気よ。貴女も同族(ヴァルハザク)や他の古龍から聞いたことない?。古龍の血には人を操る力があるのを』
「いえ、全く存じませんでしたが……」
古龍としてはまだまだ若いが彼女は悠に人間の寿命の数倍は生きている。
それだけ永く生きれば同族は勿論、他の古龍にも顔見知りとなったモンスターはたくさんいた。
それでも古龍の血に人を操る力があるなんて初耳だ。
『なら今覚えればいいわ。早速あの子に貴女の血を1滴なめさせなさい』
「花凛に私を母親だと思わせればいいんですね?」
『えぇ。古龍の血を与えた子供にどんな変化が現れるのか、そして引き続きラースの目的の為の駒探しを貴女にはしてもらいたわ。アリサ』
「はい。分かりました。ルーツ様」
『貴女達の宿の手続きは済ませてあるから。このホテルに向かいなさい』
ルーツが浮かべてる光景が共有される。
「ありがとうございます」
『気にしないで。それより中々痛そうねそのキュリア』
「‥‥はい。あの原初を刻むメル・ゼナの勾玉使いめ、騒ぎに乗じてまんまと暴れてくれました」
アリサの瘴気を物ともせずキュリアは段々と彼女の身体の中に入り込み寄生虫のように増えていた。
一般のモンスターならキュリアに操られる傀儡となるのだろうがそこは古龍種‥‥‥‥。
並外れた生命エネルギーでキュリアへの耐性が作られていた。
『ふふっ。死を纏うヴァルハザクの傀異克服個体は初めてね』
「必ずや天彗龍極や鋼龍のように克服してみせます」
『それじゃ。私はあっちの世界でやることがあるからまたね』
会話は終わった。
その後、アリサはルーツの指示通り花凛を連れてホテルに行き最後まで母親を気に掛けることなく就寝した花凛の口元へ自分の血を1滴垂らした。
今日、目を覚ますと花凛はアリサを見て「お母さん!」と呼び甘えてきた。
前の母親のことなど記憶の片隅にもない様子で……。
キュリアの影響も全く見受けられなかった。
一日経過しキュリアの動きも沈静化し徐々にキュリアの力をアリサが取り込んでいた。
―――傀異克服まで近いのかしら。
変わらぬ娘を真横に次のコマとするべく目を付けた人物の情報をスマホで見ていた。
このホテルではパソコンやスマホも貸し出しされている。
―――僅か12歳で殺人未遂、婦女暴行、恐喝……10代の殆んどを少年院で過ごし20歳の時に一家の住人6人を殺害し強盗する凶悪事件を起こし2審共に死刑判決で拘置所に収監中か。あの母親を鼻で笑うぐらいのクズね。
いつこの男と接触するか、考えながらスマホを横に置きアリサも眠りについた。
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※念の為書いて置きますがこの小説で取り扱う事件は全てフィクションです。
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