死から解き放つ黄泉を統べる者

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死から解き放つ黄泉を統べる者

カチャリと音がなり住谷は身体を震わした。     とうとう迎えの時が来たのか……。     重い扉が開き歳食った刑務官が顔を覗かせる。とうとう俺は死ぬのだ。と怯えるが出所を促したり無理矢理連れ出すような様子は見られない。     別件……か。     狭い独房に重い息が響く。 まさか死刑房で安心することになろうとは。     「住谷、お前に是非会いたいって人がいるのだが会う気はあるか?」     「俺に面会だと?」   世間の物好きには色んな奴がいるらしいまさか、自分に会いに来るなんて。 ただ狭いこのクソみたいな場所で死を待つだけの自分に一体何のようがあるのだろうか。 死刑囚に支援者が付くこともあるとは聞いたことがあるが自分もその類いの人間が会いに来たのか等様々な考えが頭を過る。   まぁ、どうせ死刑に変わりはねぇしあんまおかしな期待はしねぇで会うとするかね。   「会いますよ刑務官殿」   「なんだ急に馴れ馴れしい言い方をしおって。付いて来るんだ」   施錠がとかれ、実に6年振りに独房の外へ出た。 どんな奴が会いに来たのか考えながら住谷は刑務官の誘導を受けながら面会室へと向かう。   …………     「こんにちは住谷さん」   「こいつぁ驚いた」   ガラスの向こうに10代半ばを少し過ぎたぐらいの可憐な 少女が待ち受けていた。 自分の知人や親族にもこんな可愛い娘は居た覚えが無いので赤の他人なのだと結論づける。   ―――あぁ。しかしこの嬢ちゃん……殴ったら良い顔して泣き叫びそうだ。   小学の6年の時に同級生の女子を殴った時不思議と気分が高揚したのを思い出した。 殴った理由はなんとなく。 別段その女子が好きだったわけでも嫌いだったわけでも無いが急に殴りたくなり気がついたら拳が返り血で真っ赤に染まるまで一心不乱に女子を殴り続けていた。 一回殴る事に気分が高まったのを覚えている。鼻は折れ曲がり、すっきりとしていた顔もパンパンに脹れ上がり気を失った。 この時住谷は暫く児童相談所に保護されることとなる。     目の前にいる少女が昔の同級生と重なった。     衝動が脈打つ心臓のようにドクンドクンと膨れ上がる。 忌ま忌ましいこの仕切りさえなければ手に掛けられるというのに。     「どうしたんですか?随分と興奮されてるようですが……」   「狭い場所で死を待つ男にこんな可愛い娘が会いに来てくれたんだ。心拍数も上がるさ」   そうですか、と軽く笑いながら少女は答えた。     「住谷さんにお聞きしたいことがあるんですけど、貴方は『死』についてどう考えますか?」   「死か……」   生命の終焉、無、奈落の闇、受け入れる者もいれば怯え反発する者もいる。 生命が生命である以上は避けられぬ概念。   「そうだな、俺にとって死は……」   口元をあげながら少女を見てゆっくりと語り出した。   「自分が殺す側だった時は楽しかったが、いざ死を待つ身となると怖くなる。愉快で恐ろしいモノだ。俺は宗教なんざ信じはしねぇがもし神様が人間を作ったんなら随分と酷い生き方をさせるよなぁ」   腕を組みクククと笑いながら天井を見上げた。     「成る程―――           『貴方、気に入ったわ』       「なに…?」     シューと音が鳴り響き面会室が白く染まっていく。 圧に耐えきれなくなったのか仕切りのガラスは粉微塵に砕けた。   「ウッ!ゴホゴホッ!」   「ゴホッ!ゲホッ!」       発生した得体の知れぬ気体を吸い込み住谷と見張りの刑務官は激しく咳き込んだ。 椅子から転げ落ちあまりの苦しさにのたうちまわる。 しかし苦しみはそれだけでは終わらない。     「なんだこりゃあ……」     大量のカビを凝縮したような刺激臭に加え、ズクン、ズクンと間隔を於いて身体に痛みが走る。 このままでは死刑執行前にここで死んでしまう。死刑執行室じゃなく得体の知れないモノを吸い込んで面会室で死んだなど笑い話にもならない。   ―――苦しい。もうダメか……。     『安心なさい住谷、貴方は死にはしない』   朦朧とする意識の中……目の前の少女の発した声が静かに頭に響いた。 苦しみゆく自分を少女はただ白い世界に佇み見下ろす。 気のせいか少女の後ろに鋭い牙を持ち剥いだ皮を纏う化け物が見えた。 幻覚を見てからほどなくし住谷は気を失った。       「ふふ。愚かな罪人風情が。与えられる血のままに己の欲を果たすがいいわ」       アリサは住谷の口に血を一滴垂らしそのまま彼を持ち上げ刑務所を後にする。 すでに彼女の放った瘴気は拘置所内の到る場所に広がり収監者、刑務官含め全員意識を失い無事だったのは血が与えられた花凛のみ。 アリサ達は堂々と正面から外へ出た、門の近くにある詰所の人間も瘴気で意識を失わせなんの邪魔もなく帰路についたのである。
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