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静かな亀裂
病院から「お父様は峠を越されましたよ」と連絡が入ったのは朝の6時を少し過ぎた頃だった。
父の無事が分かり安心した理雄は今日土日を含め4日振りに学校へと通う。
彼女の玲里と共に。
「うぅぅぅぅぅ……。やっぱ恥ずかしいよ……」
「大丈夫だよ」
恥ずかしがる彼女の頭を優しく撫でた。
すると玲里は身体を理雄に預け頬を赤くしながら呟く。
「……幸せって身近に存在するんだね」
「そうだね……」
「わぁ〜!二人共めっちゃくっちゃ様になってんじゃん♪」
甘いムードは一人の少女の出現で掻き消された。
「うるさいなぁ……」
「ははは。ありがとう桜花」
どうしてうちの姉はこう賑やかなんだろうと玲里は心の中で毒づく。
伊里愛家の前で合流した桜花は明らかに玲里を誂っている。
「おはようございます。理雄さん。玲里さん」
「おはよう瑠奈」
「おはよう瑠奈お姉ちゃん」
「可愛いな〜。玲里は♪」
「瑠奈お姉ちゃん……」と若干泣きそうな声で瑠奈の方を向く。
コホン、と瑠奈は一度咳払いすると桜花の頭を叩いた。
「いったぁ!」
「玲里を困らせるのは御よしなさい。この馬鹿」
すると桜花はふざけてキレた調子で髪を捲し上げて瑠奈と似たような髪型にして「次女に手を出すのは御よしなさい。この利口!」と言い返した。
「ねぇそれさ………桜花お姉ちゃんが馬鹿で瑠奈お姉ちゃんがお利口さんだって言ってるような物だよ。自分の口で…」
「しょうがないでしょ!私より頭いい瑠奈を馬鹿ってdisるわけにはいかないでしょ!」
「困った妹ですわね本当に……」
「おぉ、やってる、やってる!。復帰おめでとう!理雄!」
「猛」
理雄の9人の親友その中でも取り分け仲の良い猛の顔を4日振りに見た。
伊里愛家は10人全員の通り道となっているので出会わす事は何も珍しくはないが今日この時は伊里愛三姉妹と顔を会わす以外は久々と言うのもあり理雄も猛も嬉しかった。
「心配させやがって!」
「ごめんな迷惑かけた」
「なーに。お前の元気な姿が見れて安心したよ。久々に今日は男同士、俺とサシで山帯屋ラーメン食いに行こうぜ!」
理雄は目でチラリと見ると玲里は微笑んで「大丈夫だよ」と口を動かし伝えた。
「誘ってくれてありがとう。行こう!」
「しゃあ!」
猛はガッツポーズを作る。
「ちょっと猛君。男同士の友情も良いけど。理雄君は玲里の彼ピッピ何だからね〜。二人の時間も考えて上げてよ〜」
玲里の両方に手を置きながら桜花は注意を促す。
気怠そうに聞こえるが付き合いが長い彼らは桜花が本気で言ってるのが分かった。
「そんな……!。ごめんね猛君。桜花お姉ちゃんの言うことあまり真に受けないでね」
「いや。桜花の言う通りだ。玲里には迷惑掛けないように理雄と遊ぶようにするから今日は貸してくれ」
「うん。大丈夫だよ」
「ありがとな!」
瑠奈のスマホの通知音が鳴ったので開くと
『後で猛君の事について話そう』
と笑いを浮かべ四人と駄弁る桜花のメッセージが入っていた。
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