強者の特権

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強者の特権

 紫陽花の身体がガクガクと震える。  真っ黒な眼鏡に精巧な顔立ちで一見すると温厚そうな立ち振る舞いの少年。  その少年の姿を見た瞬間から動悸と冷や汗が止まらない……。    「も、ちづき…君……」  口の中に広がる胃液の臭いに耐えながら彼……望月瞬の名を口にした。    嫌だ…この場所から消えたい……。  逃避の思いが紫陽花の中で加速していく。  けど逃げられない……。  「黐迅ちゃん!」    「うぅ………」  苦しそうにうめき声をあげる黐迅。  なんと首から出血していた。  彼女の止血手当てをしようと手を伸ばした瞬間彼は「やめた方が良い」と言った。  「貴女の指が切れますよ。紫陽花」  「え……?」  「ふ、勾玉適合者でもない貴女にはまだ私の『緑迅竜』の力は分からずとも無理はありません。安心なさいその娘の急所は外した。何ら問題はありません」  「何よそれ…」   今まで紫陽花は高圧的で陰湿ないじめっ子に為すすべなく黙ってばかりだった。  だが今彼女には大切な親友である黐迅を傷つけられた『怒り』と『闘気』が心に宿っていた。  「どうしてあんたはそんな上からなの?」  「ふん…カースト最下位の女が。気でも触れましたか?」  「いいや私は冷静よ。お前みたいな巨悪にもう支配されたくない!」  「ハッハッハッハッハッハッ!支配されたくないならどうするのです?。紫陽花。良いことを教えます」   『よもや私の力は人智を超越したのです』  人智を超越とか…?。厨二病?。  一瞬笑いそうになるが彼女はこれが地獄の始まりだと分からなかった。  「くふッ!?」  至るところから何かが飛んできている。  当たってもそれほど痛くはないが…当たる度に少し気を失ったような感覚に陥る。  気絶したらまた次の見えない攻撃が紫陽花を起こす。    「なにこれ……!終わりが見えない!」    朦朧とする意識の中、紫陽花の心に絶望感が漂う。  「無限ループ。怖いですよねぇ。いつ終わるか分かりません。もっとも今この場で止められるのは私次第ですが!。私とてそこまで鬼ではない」  瞬は攻撃をやめ、意識が朦朧とする紫陽花の前に立つ。  「無礼を詫びなさい。そうすれば貴女とそこの少女の命までは取りません」    「ゲホッ……本当に?」 自分が頭を下げれば黐迅と自身の命が助かるのである。 最早、紫陽花に迷う術はなかった。 バッと土下座して頭を下げ瞬に「馬鹿にしてごめんなさい」と口にした。 カシャリと瞬は笑いながら写真を納める。 「はははは。愉快ですね」 彼の言葉を聞いた直後、衝撃が走り紫陽花の視界は暗転した。
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