プロローグ

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プロローグ

 時は20✕✕年!  人々の正義感は暴走を極め、何を言っても差別発言に結びつけ、炎上し叩かれるようになってしまっていた!  謝罪しても揚げ足を取られて叩かれ、無難な発言も難癖つけられ叩かれ、無言でも「その口はなんのために付いているんだ」と叩かれる。  あまりの業火に、有名人達は全員雲隠れ。  テレビ番組は全て無くなり、動画サイトは全て閉鎖。  そして火炎は個人間へと移り始めていた。  人々は他者の発言全てを間違いだと叩き、自分の発言こそ一番正しいと言うようになった。  どこもかしこも、自分の正義を主張し喧嘩ばかり起きているような状態で、いつ戦争が起きてもおかしくなかった。  この状況を危険視し、急遽、国連総会が開かれた。  人の考えは千差万別。その中に"絶対的に正しい考え"なんて存在するわけがなかった。しかし今、世界には正しさを決める指標が、何よりも必要だった。 「いったいどうすれば良いんだ……。何を言っても叩かれるんじゃどうしようも…………ッ!!!」  国連に電流走る。 「せや! 叩いて被ってジャンケンポンで全部決めればええんや!どうせ叩かれるんだったら楽しく叩かれた方がええ!」 「??????」  こうして、ありとあらゆる事柄の正しさを"叩いて被ってジャンケンポン"略してタタカブで決める世界が生まれた!  ─────────────────── 「そんなバカなことがあるか!」  日曜日の午前六時。一般家庭のリビングに突如として大声が響いた。 「しょうがないよ。タタカブに負けたんでしょ」  ソファの上で、怠そうに胡座をかく美咲(みさき)が言った。  その隣で座る弟の(かける)は、不服そうに顔を歪め、美咲の横顔を睨みつけた。 「しょうがないで済まされてたまるかァ! 俺の唯一の生き甲斐だぞ! それをこんなオッサン向け番組に潰されたんだ! 納得できるかよ!」  翔はそう叫び、右手に持っているリモコンを指示棒のように使い、ソファの対面に置かれたテレビを指している。そこには釣った魚を自慢する、満面の笑みを浮かべたおじさんが映されていた。 「翔が納得するしないじゃないでしょ。テレビの放送枠を賭けて、アンタの好きなアニメ番組と釣り番組がタタカブして、アニメ番組が負けたんだから。  そんなに不服なら翔が、この番組の運営にタタカブ挑めば?」  正論で殴られ、翔の怒りで歪んだ顔がさらに歪む。  グヌヌとしばらく唸ったあと、風船が割れたみたいに急に真顔になったと思ったら、口をへの字に曲げ目に涙を貯め始めた。 「うぅ……、世界屈指のタタキニストが、この釣り番組のバックについてるんだよ……、俺なんかが勝てるわけないじゃん」  翔は、まるで悲劇ヒロインになったかのように、両手を天に掲げる。 「あぁ! 俺のオアシスが! ビーダ○ン、ベ○ブレードと続き、バト○ピにパスが繋がる! 戦隊モノ、仮面ライダー、プ○キュアの怒涛の三連撃に、最後はワン○ースで〆る! この子供向けアニメのシルクロードを、こんな釣り番組に全部乗っ取られるなんて!しかもこれから毎週、三時間も放送するなんて……、もう映画と大差ないじゃん……、劇場版じゃん……」  ブツブツと文句を垂れる翔の横で、美咲はぼんやりと釣り番組を眺めていた。 「文句ばっか言ってないでもう諦めな。昔はテレビ見れなかったんだから。タタカブの法案が通らなかったら今も見れないままだったんだよ。見れるだけ幸運と思いな」  そう言って、翔の方に顔を向けた。しかし、いつの間にか項垂れて意気消沈している翔の耳に、その言葉は届いていなかった。  美咲は呆れたように肩をすくめると、視線をテレビへ戻す。  翔を散々窘めていた美咲だったが、実は仮面ライダーとプリ○ュアを見れないことに、内心ガッカリしていた。元々アニメを見る趣味はなかったが、友人に耳にタコができるほどオススメされ、仕方なく見ようとした矢先、番組が放送されなくなってしまったのだ。 (日曜の朝にせっかく早起きしたのに……、あーあ、こんなことならゆっくり寝てればよかった)  心の中で愚痴をこぼし、口からはため息をこぼす。  それに明日は憂鬱な月曜日。天国のような休日は終わり、地獄の高校生活に駆り出される。 (変なやつにタタカブ挑まれて、ハリセンで頭叩かれないように気をつけないと……)  とは言っても、変人しかいない美咲の学校では、絡まれない日の方が珍しい。どうやっても難癖つけられ、ぶっ叩いてくる。 「はぁ〜……、早く夏休みになんないかなぁ」  二度目のため息をつく。  どんよりとした空間になりつつあるリビングに、カーテンの隙間から春の暖かな朝日が差し込む。  いくらお天道様でも、この陰鬱な空気を晴らすことは出来なかった。
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