人道の崖っぷち

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「どこ行くんですか」 「さあな」 「そんな!」 「黙ってついて来いっていってるだろ、アホガキ」  自分と片手ほども変わらぬ年齢の者からガキ呼ばわりされるのは、正直癇に障る。しかも親しくもないのにだ。  だから精一杯怖い顔で、太郎は繊細なデザインカラーを施した派手な髪色の後頭部を睨みつけた。 「あんまり見つめてくれるなよ、穴が空く」 「!?」  こいつは後ろにも目があるのかと驚愕するも、反応すればまた意地の悪いことを言われると唇を噛み締めた。 「帰っていいぞ」 「帰りません」  とはいえ。  動揺を悟られたのがまた悔しい。  二人はまたしばらく、無言で歩き続ける。  駅前を通り過ぎ繁華街へ。雑踏も何もかも耳に入らないくらい、太郎は後悔していた。 「あ、あの天翔さん」  ただ無言で少し前を行く背中に声をかける。  どれだけ歩かされるのだろう。目的地の分からずでは、不審もつのるというもの。しかし自分から連絡先までねだっておいて、今さら怖気付くのもどうなのだろう。  そんななけなしのプライドが決断を限りなく先送りにする。 「せめてどこに行くのかだけでも教えてくださいよ」 「……」 「天翔さん」  青年の歩行速度のはやさと、人通りの多さにうっかりすると見失ってしまいそうだ。  そうしたら。
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