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にぎった拳に爪がくいこむ。
「ま、待ってくださいよ」
もう一生、この姿を見ることが出来ないような気がした。
出会った瞬間に感じた、眩しいような視界が歪むような感覚。
すれ違う者達が思わず目で追うほどの美貌に、太郎は舌打ちを我慢した。
男が男を魅力的であるなんて思うのは間違っている。
そう固く自分を戒めた。
「飯田 太郎」
不意に名を呼ばれ立ち止まる。
「下ばかり見ていたら転ぶ」
「えっ」
そこで初めて、自分が灰色のアスファルトを見つめながら歩いていた事に気がついた。
「裏路地に入る。すぐそこだ」
ジッとみつめる二つの瞳。色素の薄いそれは硝子玉だと言われても信用してしまいそうだ。
そこに映る自分は一体どれだけの間抜け面をしているのだろう。
彼の口角が片方、小さく上がった。
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