人道の崖っぷち

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人道の崖っぷち

 近所の本屋に足を向ければ、ふと懐かしいタイトルの書いた背表紙を見つけた。  ただそれだけ。 「!」  上に手を伸ばすと軽くよろける。それが立ちくらみだと思った時には、目の前が一瞬だけ暗くなった。 「っ、痛」  肩に弱くない衝撃が加わったと同時に、小さな声があがる。 「あっ」  めまいもすぐにおさまり、慌てて視線をさ迷わせた。どうやらよろけた時に、人にぶつかってしまったらしい。 「すいません」  頭を軽く下げて謝るも返事はなかった。恐る恐る顔を上げると。 「お、お兄さん!?」 「君のお兄さんになった覚えはないけど」  憮然とした表情と声の男が、こちらをじとりと睨んでいた。 「あの怪我とかないですか」 「別に。そんな貧弱でもないんでね」 「いやいや……」  充分、華奢だし貧弱に見えるという言葉は辛うじて飲み込んだ。  よくいる大学生といったファッションに身を包んだ彼は、お世辞にも強そうとは思えない。むしろ服からのぞく手首も折れそうな程に細く、肌の色も白い。
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