人道の崖っぷち

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「あの、お兄……じゃなくて、天翔さん」 「なんだよ」  名前すら呼んでくれるな、という表情。しかし勢いだけで言った。 「ら、LINE交換、しませんか」 「絶対にしない」 「えぇっ!?」  即答、にべもなく。  そして鳩が豆鉄砲食ったような太郎を置いて、彼は歩きだした。 「なんでですか!」 「むしろなんでその流れですると思ってんの」 「いや、それは」  我ながら意味不明なタイミングと要求だった。ほとんど思いつきなので反論しようがない。 「大体ね、僕がなぜ君に連絡先をわたしてやらなきゃならないのさ」 「ええっと」 「君が何考えてんのか分かんないけど、僕と君は初対面で無関係だ。今までも、そしてこれからもな」 「そんな」  激しい拒絶にうなだれる。  別に女をナンパしたわけじゃないのに、なぜここまで言われなくてはいけないのか。  ただ。 「月乃が、お兄さんのことめちゃくちゃ心配してて……だから、俺……」  浅はかでお節介なのは重々承知。それでも恋人の悲しみと不安はやわらげてやりたいというのは、そんなに悪いことなのだろうか。
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