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ここは東京の片隅、ある男が小さな雑居ビルに自宅兼事務所を開いた。
『CatsHand』
これだけでは何の事務所か分からないが、本人は探偵のつもりでいる。
男の名前は『東郷雅宗』、バツイチの35歳、黒い短髪はつい最近まで自衛隊に所属していた証の様なものだ。
この東郷と言う男、自衛隊を辞めて探偵を始めようと思ったのは、ただ単に人助けがしたかっただけだった。
もちろん、自衛隊でも人助けをしてるが、本人が思う人助けとは違った様だ。
探偵の経験はないが、自衛隊で鍛えたその精悍な体つきから、体力や腕力にはそれなりの自信はあるらしい。
しかし、開業1ヶ月経ったが今のところ一件の依頼もない。
「う~ん、暇だ…」
事務所のソファーで伸びをする。
事務所と言っても、事務机一つとソファーだけの何とも殺風景な部屋だ。
奥は自宅となっているが、簡易ベッドがあるだけの更に殺風景な部屋だ。
その事務所のドアが勢いよく開いた。
「兄貴!ホームページ出来たよ!」
元気よく飛び込んで来たのは『藤田早苗』だ。
彼女は東郷の元妻の妹だが、離婚後も東郷を『兄貴』と呼び慕っている。
セミロングの茶髪をポニーテールにしている20歳の現役大学生で、東郷が事務所を開くとすぐにアシスタントとして押し掛けてきた。
因みに『キャッツハンド』は早苗が命名した。
「そう?ありがとうね、早苗ちゃん」
東郷はソファーから起き上がると机に向かった。
机の上のパソコンでホームページを確認する。
「えっ?早苗ちゃん…これってどうなの?
探偵って一言もないよ?」
「探偵なんて胡散臭いの今時流行らないわよ
同じ人助けなんだからこれで良い~の!」
早苗の圧しに東郷は何も言えなかった。
『猫の手、お貸しします!
地元のお手伝いなら当キャッツハンドへ!
何でもやります!』
ホームページには可愛らしい猫のイラストに、このキャッチフレーズがデカデカと出ている。
探偵と言う文句は何処にもなく、『犬の散歩から人捜しまで…』と、なんとも幅広い依頼を受けることになってしまった。
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