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季節は流れ、俺はしっかりと和里君と距離と関係を守っていた。
彼はすっかりバイトにも慣れ、先輩店員としても頑張ってくれている。
ただし相変わらず年下にもいじられる、『かわいい男子』のままだ。(笑)。
しかし、お客様からの評判は上々だ。
「こんにちは」
「いらっしゃい…あ、真希ちゃん」
真希ちゃんは、この春短大に入学し、バイトを卒業していった。
でも、休みになると、顔を出してくれる。
「鹿間さんは?」
ついて早々に、和里君を探す。
「もう来るよ、どうしたの?」
ちょっと胸が痛む。
「もうすぐ、二十歳の誕生日でしょ?」
あぁ、週末には、和里君は二十歳になる。
「一緒にバイトしてた子たちみんなでプレゼントかったの」
そう言って、包みを出す。
「代表で渡しに来たんだ。」
なるほど。
真希ちゃんが距離的にも時間的にも店に来るのに都合がいいのか。
少しでも、気持ちをざわつかせたことに、
恥ずかしさと後ろ暗さを感じてしまう。
そんなことを話してると、
「おはようございます」
と和里君がお店に顔をのぞかせた。
「あ、真希ちゃん、久しぶり」
すぐに真希ちゃんに気づく。
「お久しぶり」
二人の様子をじっと見てしまう。
「アイスでいいかな?」
椅子を引いて自然に流れるように、真希ちゃんに接客する。
さすが和里君だな、と思わされる。
「はい、」
真希ちゃんの声を後ろに聞きながら、俺も自分の仕事に集中する。
今はお客様の少ない時間帯。
カウンターに大学生が2人いるだけだ。
きっと真希ちゃんはそれもわかって、この時間に来たのだろう。
「はいどうぞ」
「ありがとうございます。」
和里君が運んだコーヒーがテーブルに置かれて、
真希ちゃんがお礼を言う。
「鹿間さん、はい、これ」
そう言って、さっそくあの包みを真希ちゃんは、和里君に渡す。
「え?」
不思議そうにそっと受け取る。
「お誕生日です、ナナとチーとヤスと私からです。」
一緒にバイトしてた友達の名前をあげる真希ちゃん。
「わーありがとう」
その瞬間ほんとに嬉しそうに目を細める和里君。
「悪いね、でもうれしい」
「いえいえ、鹿間さんにはうちらお世話になったんで、二十歳の記念に」
と言って笑う真希ちゃんも嬉しそうだ。
「これで大人の男目指すわ」
「それな、とりあえず、エプロンは大丈夫そうですね」
と二人は笑いあった。
いったい何をもらったんだろう?
ちょっと気になってしまう。
「ゆっくりしてってね」
そう言うと和里君は一度バックヤードに戻っていった。
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