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社会人になって、付き合いや人脈も広がっていった。 でも何となくおっくうになって、恋人は作らずにいた。 1人に慣れてしまったのかもしれない。 そして、仕事に打ち込むうちに、20代で店舗を任されるようになった。 美月は 「仕事での心遣いが、女にもできたらもてるのに…」 という。 そう言うことか、と思うのだけど、お客様のように、 と思える人が、現れていないのも事実だ。 「理想高すぎるんだよ」 「顔がいいと理想も高くなるんだよ」 と大学時代の友達にはよく茶化された。 彼—和里君—が、バイトの面接に来たのは、俺が店舗リーダーになって、1年半がたったころだった。 「今日の面接の子、とってもいい子でしたね」 一緒に事務処理をしていた、社員の森山(もりやま) 妙子(たえこ)さんが話しかけてきた。 俺もPCから目を話して、 「そうですね、接客にも向いてそうだし」 と答えた。 森山さんは、彼の履歴書を見ている。 というか、履歴書の写真を見ているようだ。 「いい笑顔だし、かわいいなぁ」 森山さんは、恋する女の顔をしていた。 「そんな顔してたら、旦那さんに怒られちゃいますよ」 ちょっと意地悪を言う。 「え?そんな顔してました?」 コクコクうなずく俺に、 「確かに、ちょっと旦那に似てます」 と笑ってごまかしていた。 森山さんがデスクに置いた履歴書を、俺ももう一度見てみる。 「特技は…“早く歩けます”って…」 履歴書にそんな特技書く? ちょっと笑ってしまう。 「あ、それ私も笑っちゃいそうになりました。」 「シカマ ヨリ君かぁ」 面白い子だなぁ。 もうこのときには、彼に惹かれていたのかもしれない。 もしかして、これも彼の思惑…? だとしたら俺は完全に彼にはめられたんだろうか?
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