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5
「和里君 お疲れ様。」
予想通り、彼はいい仕事をしてくれた。
さらに、どのパートともバイトとも、社員とだってうまくやっていた。
ただ、特技はあまり活かせていない。(笑)
「ゼンさんお疲れです。」
人懐っこい笑顔で挨拶してくる。
十代がまぶしく感じるなんて、俺も年を取ったなぁ。
と苦笑してしまう。
「そういえば、来月メンテナンスで、店3日休むってほんとですか?」
「あぁうん。うちは8月に各店舗3日休んで、いろいろやるんだよね。」
うち2日間は、俺たち社員も完全な休みだ。
「森山さんに聞いたんですけど、その時懇親会あるって」
あぁ、森山さんもう話したんだ。
「うん、でも参加は強制じゃないから…」
「俺行きたいです!」
俺の声を半ば遮って、食い気味に参加表明をしてきた。
「…あ、そ、そう?よかった。」
ちょっと押されてしまう。
「もちろんゼンさんも参加ですよね?」
「あ、うん。一応主催者だからね」
「よっしゃぁ」
なんだかわからないけど喜んでくれている。
「ほとんど全員参加してくれるみたいだから、楽しんでね」
と一応言っておく。
おそらく、そういうのが好きなのだろうと思っていたら、
思いがけない一言を聞かされる。
「ゼンさんとご飯行くことないから、むちゃくちゃ楽しみです。」
「え?」
「俺、ゼンさんに聞きたいこととかいっぱいあって」
目をキラキラさせている和里君に、不覚にもドキッとしてしまう。
「え?」
少しどぎまぎしてしまう。
「ゼンさんて、THE大人の男って感じじゃないですか?
俺、そういうのほんとあこがれてて、なんていうか、
俺って落ち着きないっていうか…。どうしたらゼンさんみたいな、
男になれるのか気になっちゃって…。」
と一気にまくし立ててきた。
「…ハハ、あぁ、うんなんか、ありがとう」
「だから、仕事以外の時間にいろいろ教えてもらいたくて」
いや、特になんもないし、逆にその社交性を教えてほしいよ。
と思ったけど、声には出さず曖昧に笑っておいた。
「じゃ、来月楽しみにしてます」
お疲れっしたぁ!と嵐のように帰っていった。
にっ!と最後に見せたその笑顔に、なぜか俺はきゅんとしてしまう。
何この感情?
彼が帰っていった事務所は必要以上に静まり返っていた。
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