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そんなやり取りがあってから、
なぜか和里君が気になってしまう。
冷静になって考えたら、プライベートで交流がない俺に、
単純に好奇心を持っているのだろう。
和里君から見たら、俺の生態は謎なのだろう。
でもなんだろう。
俺に興味を持っているというふうにも取れるその言葉に、なぜか俺の心はざわついている。
気が付けば、和里君の行動を目で追ってしまっている。
「ゼンさんどうしたんですか?」
バイトの真希ちゃんに声をかけられて、我に返る。
「鹿間さんどうかしたんですか?」
やばい、見てることバレバレだ。
「ん、あぁ、いや、若いとよく動くなぁと…。」
適当にごまかした。
「ゼンさんだって、まだ若いじゃないですかぁ」
「ハハ、そうかなぁ」
「そうですよ、しかもイケメンだから、お客さんにも人気だし」
「ほんとぉ?」
「うちも、友達に言われたりしますよ『真希んとこの店長さんイケメンだね』って。」
「ハハ、そりゃ嬉しいね。JKに褒めてもらえるなんて」
「いや、今の発言はおじさんだけど」
と言って、真希ちゃんは、ジト目で俺を見た後、にやっと笑う。
「いや、でもマジで、ゼンさんいい感じだと思いますよ」
真希ちゃんは、そう言って俺の肩をポンと、たたいた。
「素直にうれしいよ」
そう言ってほほ笑み返すと、
「よーし、ちゃっちゃとかたずけましょう。」
と、腕まくりをする。
真希ちゃんはかわいい。
同年代の男の子なら、こんな子に惹かれるのだろう。
でも、年が離れすぎているせいか、俺は何とも思わない。
ただ、『いい子だなぁ』と感じるだけだ。
うちは特に社内恋愛禁止ではない。
実際付き合っている子もいるようだ。
和里君と真希ちゃんには、そういう噂はない。
トクベツ仲が良いわけではないけど、
必要以上に近づいたりもしない二人。
でも、何となく雰囲気が似ているし、
最近は結構シフトもかぶっている。
真希ちゃんは和里君をどう思ってるんだろう?
逆に和里君は?
ちょっと、もやっとする。
いや、うちの店舗は二人と同じくらいの子も多い。
真希ちゃんじゃなくても、和里君は気になる子はいないんだろうか?
いやそんなこと、小さいことだ。
バイト先じゃなくても大学にはいろいろな付き合いがあるだろう。
そもそも、和里君に彼女がいないという前提だけど、
お店以外の和里君を俺は知らない。
そう考えたら、もやもやとドキドキがどんどん大きくなってくる。
「ゼンさん大丈夫ですか?」
…!
突然、和里君に声をかけられて、びくっとしてしまう。
「あ、う うん大丈夫」
慌てて取り繕うけど、まともに顔が見れない。
「悪いけど、ちょっと事務所にいるから、ここお願いしていい?」
そう言うと屈託なく
「了解です。ゆっくり休んでくださいね」
と返される。
ちょっと罪悪感。
事務所の椅子に座って、深呼吸をする。
だいたい何なんだ。
和里君に彼女がいたからって、俺には関係ない。
そうだ、大学生なんだから、いたっておかしくないし、
俺がどうこう言えることじゃない。
何考えてるんだ。
俺はこのとき、自分の中に湧き上がってこようとする気持ちを
気づかないふりして閉じ込めてやり過ごそうとしていた。
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