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「お疲れっした」
食事会が終わり、それぞれに解散していく。
パートさんたちは買い物や、保育園のお迎えに、
高校生組はカラオケに行くようだ。
なぜか、俺の横で、高校生組を見送る和里君。
「行かないの?」
「いや、あの若者のノリ、俺にはついていけないっすよ」
ちょっと大人ぶって言う和里君に思わず笑ってしまう。
「いや、君も若いから」
と彼の頭にポンと触れてみる。
「もしよかったら、もうちょっと話しませんか?」
思わぬ提案にドキッとする。
これが、男女なら完全なるフラグだ。
「あぁいいよ。」
そう言うと、和里君はいつもの人懐っこい笑顔を見せた。
「あの、ゼンさんが普段行ってるとこ行ってみたいです。」
嬉しそうに見上げてくる。
さて、どこに連れて行こうか…。
考えて、近くのホテルのロビーのラウンジを思いついた。
暑いから、近くで涼める静かな空間だ。
ホテルのロビーに入ると
「おぉ」と和里君から声が漏れる。
ちょっと彼には早すぎたかな?
と思いつつも、ラウンジのカウンタ―にエスコートして、
自分も腰を下ろす。
「いらっしゃいませ」
スタッフが頭を下げる。
「何にする?」
カウンターの奥にあるメニューを視線で示す。
「あ、アイスコーヒーで」
「甘いのじゃなくていいの?」
そう聞くと、ちょっとむくれる。
かわいいな
「じゃあ、アイスコーヒーとカフェモカ砂糖多めで」
「かしこまりました」
スタッフがそういって奥に消えると、和里君が意外そうに尋ねてきた。
「甘いの飲むんですか?」
「ハハ、がっかりさせた?」
大人の男ならエスプレッソかな?
「い、いえ、ちょっと意外だっただけです。」
ダメだなぁ、この和里君の笑顔は独り占めしたくなる。
お店以外で和里君と二人きりであっていることに、
結構舞い上がってしまっている。
「でも、カフェモカでも砂糖いっぱいでも、ゼンさんはかっこいいです。」
「ハハ…。最高の誉め言葉だね」
「俺がそれ飲んだら、『かわいい』って言われちゃいますもんね」
「でも、和里君は人に好かれてるし、」
ちょっと一呼吸置く。
「その、もてるんじゃない?学校でも」
聞きたくないのに気になってしまうこと。
「あぁ、俺もててるんすかね?『いい人』で終わっちゃうんですよね」
へへ…。と笑っている。
この答えで察する。今のとこ彼女はいない。
いや、だからって何安心してるんだ。
彼女がいないからって、何だっていうんだ。
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