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中津 然 1
「おはよーございまーす」
今日も彼が元気よく出勤する。
「おはよう ご苦労さま」
黒のエプロンの紐を後ろで縛りながら、
バックヤードから笑顔をみせている。
「鹿間さん、縦結び」
バイトの加倉 真希ちゃんに声をかけられ
「え?まじ?」とか首をめいいっぱい後ろに向けている姿を思わず見つめてしまう。
あいかわらずだなぁ。
「ったく」
真希ちゃんは呆れながらも、彼のエプロンを直しているようだ。
「鹿間さん、3回に1回しか、きちんと結べてないですよね?運ゲーですか?」
と真希ちゃんの声が聞こえてくる。
「あぁ、マジそうかも、うまくいく日と縦結びになっちゃう日、何が違ってんのか自分でもわかんなくて‥」
ハハ‥と照れ笑いしてるのが見なくてもわかる。
彼の表情や仕草は、だいたい想像がつく。
そのくらい俺は、彼のことを見てしまっているようだ。
男なのに、男に見惚れてるなんて気持ち悪い。
自分でもそう思うのにやめられない。
彼に知られてはイケナイ。
そう言い聞かせて、今日もいいお兄さんを演じる。
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