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「いよいよ、ですね。隊長には何度も助けていただいて、感謝してもしきれませんわ。」
レティ姫は儚く微笑む。焚き火がパチ、と小さく爆ぜる。
眼前には最果ての絶壁と評される荒れた山脈が広がっている。人はもちろん動物だって寄り付かないような辺境の地。古の時代、魔王が支配していたというこの場所に、王国の姫レティとその城の騎士隊長オストの2人だけがあった。
「そんな、姫様の癒しの技あってのものです。それに、自分の使命は、姫様を守ること…ですので。」
しかしそれも明日まで。目的地である生け贄の祭壇は、明日の昼には着く予定だ。姫の命は、そこで潰える。
死ぬための旅に同行し、その命を守るという矛盾した使命を負う騎士は、伏し目がちに続ける。
「民のためとは言え、未だになぜ姫様が、と思わずにいられません。」
「それはもう済んだ話です。私の命で国や民が助かるというのなら、安いものでしょう。それに、私が王位を継ぐより弟が継ぐべきですし、嫁ぎ先まで政争の道具になるよりはるかに良い身の振り方だと納得してますのよ?」
そう笑って炙った干し肉にかみつく。この半年の旅でずいぶんと逞しくなられたものだと、騎士オストは目頭が熱くなる。
その旅が、終わろうとしていた。
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