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焚き火がパチパチと火の粉を上げる。
「この半年、様々なことがありましたね。」
「野盗に熊、狼の群れ、詐欺師とこの国の課題が見えるような半年でした。騎士団の精鋭も、1人、また1人と脱落してしまい、姫様には心細い思いをさせたのではと反省しきりです。」
「それでも、お城にいるより刺激的で楽しい半年でしたわ。」
「…姫様は本当に逞しくなられましたね。」
「それ、誉めてるんですの?」
「はい。お強くなられました。このまま魔王を倒してしまいそうなほどです。」
「ふふ、倒すのよ。私が、この身で。民には手を出させるものですか。」
最後の夜と意識して、いつになく饒舌になる2人。自然と見つめ合って、旅を振り返る思い出話に興じる。いつもならもう眠る時間になっても、なかなか切り上げられなかった。
「繰り返しですけど、隊長には本当に感謝しておりますの。貴方のおかげでここまで来られた。心からそう思いますわ。」
レティが先刻の言葉を、今度はオストの目を見てハッキリと告げる。
「どうか、貴方は無事に王城に帰ってくださいね。あ、でももう半年かかってしまうわね。」
続いた優しいレティの言葉が、オストの顔に寂しさとも悲しさともつかない表情を浮かばせる。
「…姫様、自分はやはり納得いきません。半年お供させていただいて、よりその念を強くしております。姫様のためなら自分、魔王だって倒してみせます!どうか、共に帰ってくれませんか?」
「…いつだったかしら、貴方が私と同い年だと聞いたのは。」
レティは答えず、問いを返す。
「自分が騎士隊長に任命され、初めてお目にかかった時です。初任務が夜会での姫の護衛でした。」
「そうそう。馬車の中でも緊張しきりで、こちらまで胃が痛くなりそうでしたのよ?」
「そ、それはっ…その、自分が騎士を志した理由が姫様でしたから。」
「え?」
「姫様が10歳になられた時の記念パレード、覚えておいでですか?実は、自分、あの時初めて姫様を見て、この方をお守りしたい!と強く思ったのです。それで、15で騎士見習いに仕官し、力をつけて…あぁ、この話は墓場まで持っていくつもりだったんですが…。」
生真面目な騎士は少年のような顔で頬をかく。顔が赤いのは焚き火の照り返しだけではない。
「そうだったんですの…。」
対するレティも顔を赤らめ落ち着きがなくなる。
「じ、実は私もね、半年前、隊長がお供を申し出てくれた時、すごく嬉しかったのよ。騎士団の中でも特別信の置ける隊長が一番にそれを言ってくれたことが、すごく嬉しかったわ。」
早口であわあわとしゃべり、手で顔をパタパタとあおぐ。
オストもむぐむぐ何か言おうとするも、上手く言葉にならず、気まずい沈黙が流れる。
「も、もう寝ましょうかっ!」
「そ、そうでありますね、また明日……」
言いかけて止まる。
「明日が、来なければ良いと思ったのは初めてです。」
オストは拳を固く握り、うつむいた。
「えぇ、私も…ですわ。…おやすみなさい。」
レティもうつむきつぶやくと、振り返らずテントに消えた。
オストは夜空を見上げ、いつまでも寝付けなかった。
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