雨音に紛れる

5/6
前へ
/6ページ
次へ
昔はあまりにも怖くて、泣いてしまった僕を母に慰めてもらっていた。 今もほんの少しだけ怖くは思うものの、それよりも上回る、見ていてワクワクとした気持ちが湧き上がってくる。 どうしてなんだろう。 ひたり、と両手を窓に添えた。──その時。 ガッと、急に窓から生えてきた手に掴まれた。 目の前のありえないことに頭が追いつけず、けれども、その手が窓へと引きずり込もうとするのを、慌てて抗う。 その際に、暗がりとなった窓ガラスに自身の姿が映し出されたが、驚いた。 窓に腕を引っ張られ、焦っている表情の顔が映し出されるはずだ。だが、そこに映し出されたのは、僕の手を掴み、微笑む"僕"。 違う。僕だけど、僕じゃなくて。 「·····あめ。·····あっ」 一瞬、気が緩んでしまったせいで、自分とは思えない力に引きずり込まれた。 「やっと会えた。爽雨(そう)·····」 後ろから抱きしめてくる、僕と同じ声。 触れられている。 あの時は、触りたくても触れなかったのことが、こんなにも簡単に触れられることが出来るだなんて。 でも、どうして。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加