11人が本棚に入れています
本棚に追加
疲労は氷だ。心を冷たく覆って、鈍らせてしまう。
綿のように疲れる、とか、心身をすり減らす、といった表現がある。けれど、おれにとっての「疲労」は、綿のように立っていられなくなったり、すり減ったりするものではない。そういう状態にならよう、心を守ることで生まれるものだ。
ストレスの中でも立っていられるように強固に、どんな言葉を投げつけられても感情が波うたないほど冷たく。自分の弱い部分を、冷たく硬いもので覆い隠し、無理やり状況に立ち向かわせる。そうしなければ乗り越えられないことは、残念ながら、おれの人生、特に仕事には多々ある。
快活さを演じ、自信ありげな表情を作り、隙のない言葉で武装する。そうやって作り上げた「仕事のできる人間」の鎧は、いつだって役に立ってきた。硬い氷で心を武装していれば、仕事は乗り切れる。でも、寒い。凍えそうに寒い。冬の夜、どんなに着込んでも、体の芯が冷たいままだ。
今夜はまさにそんな日だった。大きな案件でこれまた大きなトラブルが発生し、二週間、まともに家に帰れなかった。その二週間で形成された冷たい氷を抱え、玄関の鍵を開けた。
最初のコメントを投稿しよう!