冷凍パンとフレンチトースト

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 リビングに戻ってきても、あいかわらず、光弦は目を覚ます気配もなかった。一度寝たらなかなか目が覚めないのは知っている。  胸の下に腕を差し入れ、机に伏せていた上体を起こしてやる。寝息すら乱れない。額にかかる淡い色の髪を指先でそっとはらってから、耳元で「光弦、寝室行くぞ」と囁いた。ぶつからないように椅子を動かして、完全に力の抜けた体を横抱きに持ち上げる。痩せ型とはいえ成人男性、腕にはかなりの重みがかかる。けれど、苦痛ではない。腕の中の体温が、心を覆う氷をじんわりと溶かしてくれる。  寝室のベッドに光弦を下ろす。足元に畳まれた布団を胸までかけてやった。呼吸に合わせて上下する胸に、そっと手を置く。薄明かりの中、柔らかく光る唇に、唇で軽く触れた。  顔を離したとき、薄い色のまつ毛が震え、光弦が細く目を開けた。
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