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白い光が緩やかに意識を浮上させていく。ぼんやりとした視界のなかに、明るい色が映し出された。
「あ、亮くん起きた?」
おれは喉の中で「ん」と答え、体を起こした。ベッドの横で顔を覗き込んでいた光弦が「おはよ」とほほえむ。
「ん、おはよう」
答えてから、光弦がエプロンをつけていることに気づいた。
「なんか作ってたのか」
「フレンチトースト仕込んでた」
「フランスパンなんかあったか?」
「冷凍してた食パンでやったの。食パンでも美味しいんだよ、ふわふわで」
「へー」
フレンチトーストなんて、家で作ったことがないし、そもそも食べた記憶もないから知らなかった。朝食はたいてい、トーストとコーヒーで、時間のある日は卵やハムが加わるくらい。カフェなんかでもよく見るが、女子の食べ物だと思い特に注意も払ってこなかった。
「どのくらいかかるんだ、フレンチトースト」
「んー、一時間くらいは浸けないとだめかも」
「じゃあ二度寝しようぜ」
光弦の首にするりと手をまわし、不意をついて後ろに倒れた。引っぱられた光弦が「わっ」と声をあげ、おれの顔の両側に手をついて体を支える。覆いかぶさる格好になった男を見上げた。
光弦は数回瞬きしてから、目を細めた。
「疲れてない?」
「睡眠は足りてんだ」
「亮くんはぼくに甘いね」
「おまえのほうが甘いだろう」
息のかかる距離で囁いて、そのまま唇を重ねる。手探りで光弦のエプロンのひもを解き、床に落とした。光弦の手も、おれの寝巻きの中に入りこんでくる。
ゆるやかに上がっていく体温で、奥に残っていたわずかな氷が溶かされていく。
あとはもう、熱いだけだった。
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