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結局、フレンチトーストは二時間以上卵液の中で浸されていた。
「遅くなっちゃった。朝ごはんっていうか、ブランチだね」
キッチンに立つ光弦を、食卓に肘をついて見る。シャワーを浴びた光弦の髪の毛は、ほのかに湿って、遅い朝の光を柔らかに乱反射させる。
「昼飯いらねえな。これ食ったらそのまま映画行こうぜ」
「そうだね。もう冷蔵庫なんにもないから、帰りにスーパー寄る?」
「でも、昨日のカレーがまだあるよな」
「じゃあ買い物は明日でいいか。あ、冷蔵庫に入れてくれたよね。ありがとう」
「ん。昨日、一緒に食えなくてごめん」
「いいよ、今日は一日一緒にいられるもんね」
にこにこと笑う光弦の表情には裏も含みもない。楽しそうな笑みのまま、フライパンの中身を慎重に皿にうつし、食卓まで持ってきてくれる。
「はい、どうぞ。メープルシロップはないから、蜂蜜かけようか」
白い皿の上で、黄金色のフレンチトーストが湯気を立てている。あまい香りが鼻腔を通る。コーヒーも光弦がいれてくれた。
「すげえ、至れり尽くせりだな」
「ふふ、ありがと。お疲れの亮くんを癒したくて」
仕事の疲れなら、すでにベッドで癒されている。けれど、どこまでも甘やかされるのも、悪くない。
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