冷凍パンとフレンチトースト

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 はちみつをかけようとしたら、椅子から身を乗り出した光弦に、先にボトルを取られた。 「ぼくがかけるね」 「ん」  とろりとした黄金で描かれたのはハートマークで、思わず吹き出した。 「なに、今日おまえ」 「笑わないでよ」  光弦はわざとらしくほおを膨らませたが、すぐに笑顔になった。 「やっと笑ったね、亮くん。よかった」 「……おれ、そんなに笑ってなかったか?」 「うん、お疲れだったでしょ、最近。今日はゆっくりできて、すごく嬉しい」 「……おう」  亮は皿に目を落とした。はちみつで描かれたハートは、まだ湯気を立てるフレンチトーストの上でじわりとその輪郭をにじませていく。 「いただきます」  手を合わせて一切れ、口に含めば、甘さがとろけていく。 「うまい」 「うん、いい感じにできたね」  顔をほころばせる光弦につられて、自分の顔も緩んでいくのがわかった。
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