でんじゃらす彼女

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   自主練を終えてミユキちゃんと一緒に歩く。うつむき俺の横にぴったりとくっついて歩くミユキちゃんは小動物にしか見えない。 「ミユキちゃんって何年生?」 「貴様を見つけたのは今年だ……」 「一年生か。俺、あんまり人の顔覚えないけど、ミユキちゃんはやっぱり気になるわ」 「覚えてもらおうなど露ほども思ってない。貴様は貴様の生き様を貫けばいい……」 「ふふ。口は悪いけど、言ってることは確かにそうだな。でもさ、サッカーはもう辞めるんだ」  ミユキちゃんの足がピタリと止まる。 「サッカー……辞めるのか?」  ミユキちゃんに合わせて俺も止まる。 「うん、自分で決めたことだ。俺はプロになりたい訳じゃないんだ。もうすぐ俺の青春は終わる」 「サッカーだけが青春じゃない……。辞めても貴様は貴様の青春を生きればいい。私は貴様が落ちこぼれようと野垂れ死のうと貴様を見ている……」  言葉の選び方は独特だが、どうなろうと俺を応援すると、そういう言葉に聞こえた。やっぱりミユキちゃんはいい子だ。 「ミユキちゃん、ありがとうね。少し救われたよ」 「私は何もしていない」  誰かを救う言葉を紡ぎ出せる人ほど、何もしていないと言う。否定はしないよ。余計な言葉はいらない。ただただありがたかった。  ミユキちゃんの家に辿り着く。俺は役目もここまでと思って立ち去ろうとしたが、ミユキちゃんが俺の手を握る。 「お茶くらい……出す……」 「えと、いきなりお邪魔したらご両親に悪いでしょ?」 「両親も貴様のことは知っている。遠慮するな……」  俺を応援してくれているのは良く分かったが両親にも話しているとは流石に想像しなかった。 「じゃぁちょっとだけ」  無碍に断るのも悪い気がして上がることにした。 「お父さん、ミツグさん連れてきた」  一緒に上がって居間であろうと場所に向かうと両親らしき人が出迎えてくれた。 「まぁ! お茶淹れなきゃ!」  パタパタと動き出すミユキちゃんのお母さん。 「宿敵! よく来た! さあさあ座ってくれ!」  ミユキちゃんのお父さんは突然に俺を宿敵呼びを始める。言われるがままに座るとミユキちゃんのお父さんは語りだした。 「君のことはミユキからよく聞いている。ミユキが特定の誰かを応援することなど今までなかったからな。私が昔から時代劇や任侠映画をミユキと一緒に見てた影響でこんな言葉遣いになってしまったが、もしミユキが誰か男性を連れてくるならば、君だと思っていたよ。どうだ? ミユキは可愛いだろう?」 「ええ。可愛いですね」  問われるがままに答えると横のミユキちゃんは、またまた真っ赤になって俺の手をつねる。 「……貴様は口から生まれたのか?」 「なぁ? 可愛いだろ?」 「ええ。可愛いですね」  ミユキちゃんのお父さんに問われるがままに答えると今度は腹をつねってくるが、非力過ぎて全く痛くない。逆に可愛いくらいだ。その上、このお父さんとは話が合いそうだ。 「うんうん。まぁこれからもよろしく頼む。きっと君は私の宿敵になるからな。私の勘はよく当たるのだよ。なので君を宿敵と呼ばせてくれ」  ミユキちゃんのお父さんの脳内でスゴい話が進んでるなぁとは思ったが別段イヤではない。俺もちゃんと考えたほうがいいんだろうな。今までの人生で一番可愛いと思ったのがミユキちゃんだ。これからの人生、ミユキちゃん込みで考えるべきだろう。
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