資料1『矢ケ崎川とBBQ』

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資料1『矢ケ崎川とBBQ』

初夏を迎える前のとある先日の出来事である。  ある団体が軽井沢にある矢ケ崎川というところに、事務所の毎年恒例のイベントとしてBBQに来ていた。 「あー田中さんこっちにそれ持ってきて!!  石田さんはそれ向こうの屋根の...  そうそう!!今津田君のいるところ!!」  1人の男がその場を上手く仕切りながらBBQの準備を全員で和気藹々と行っている。大体30後半だろうか。だが年齢を感じさせない程の童顔と、雰囲気から滲み出る若々しさに圧倒される人も少なくはないはずだ。 「石田さん、お肉の焼き加減ってどれくらいですか?」 「うーん、俺皆の好みを把握していっているわけでは無いからあれだけど、強火で3秒クッキングする?」 「それ一瞬で焦げるか生のままじゃないですか?食べたらお腹の中ゲリラ豪雨で被害者続出もしくは事務所の危機になりますよ...」 「んもぉ〜もう少し乗ってくれてもいいじゃ〜ん」  オネエのような話し方をしているのは石田、そしてその相手をしているのが石田の後輩である津田だ。 「いや...俺オフのときいつも之くらいのテンションで過ごしているんでそんな無茶言われても...」 「石田パイセン、こいつ高校の頃からずっとこのテンションを極めているからそんないっても無駄っすよ  というかこいつコントのときでも基本ポーカーフェイスの方が多いし...  というかこいつツッコミだし!!」  津田のフォローに入るように隅から顔を出してきたのは学生時代に一時期不良だった麻生だ。今ではもう足を洗っているが、髪は金髪で服装の趣味は好き嫌いが分かれそうな柄物の服装を好んでよく着ている。因みに今日の服装にはサングラスとピアスも付けているためか、もし親子が見たら即座に子供の手を引いて逃げるに違いない。 「こらお前達〜  喧嘩をするなら外でしてこーい」  学校の先生のような怒り方で事務所の長の蛯原が此方に向かって叫ぶ。 ‘’ 修学旅行で一番浮かれている気持ちを隠すために必死な先生かよ... ‘’ ‘’ 蛯原さん天然... ‘’ ‘’ 蛯原さんビールどこ⁉ ‘’ 普段なら当の本人がいる前で言えない言葉も飛び交う。余りこういう雰囲気になれていない津田は少しだけ顔をしかめる。 ‘’まぁまぁ落ち着けよ津田ちゃん、これもイベント効果ってやつだろ?楽しもうぜ?‘’ と、言いながら端でビールを片手に様子を見ていたピン芸人の秋田が津田の背中を叩いてくる。アルコールを摂取しているからなのか、酒の匂いと服から伝わってくる体温が妙に気持ち悪く感じる。若干普段の煙草の匂いがアルコールによって少し緩和れているのは不幸中の幸いと言いたいところだが、酒が飲めない津田にとってはどちらも悪夢そのものだ。   また、そんなこんなで脳内会議をしている津田を置いておいて色々な情報が盛んに舞っていても、他愛のない事でこの場にずっと笑いが溢れ出している。これもイベント効果なのか、それとも秋田と同じアルコールによって脳内が惚けているのかは津田には分からない。 「いやここ外だし」 津田と麻生がさも双子のように呟いた。               * BBQの醍醐味といえば何だろうか。 結婚式の披露宴みたいに何か挨拶をするのだろうか。否、BBQだからそんな事をするなんて、お疲れ様会や何かを祝う祭りとかじゃあるまいしやることの方が稀か。 少し伸びて色落ちしてきて少し錆びてきた金貨のような色に染まってきた髪をいじる。 「最後に散髪に行ったのいつだっけな」 不良の道からやっと足を洗い切り、高校で運命的な出会いをした津田と新しく第二の人生として始めた‘’芸人‘’の道だが、養成所に入り二年も経っているのに未だにネタも今後のやりたい方針も何も振ってこない。 俺が向いていないだけなのだろうか。それとも俺が邪道な行動を良かれとして進んでいたから? こんな事を言ったところで誰も答えてくれないのは分かっているのに。 「BBQしながら何考えてんだ俺」 元々独り言を周りの倍呟くやつだけど、聞こえてねぇよな... 「...何?肉食わないの?」 「いや、さっき多く食ったから余お腹空いてなくてさ」 相方の顔色を伺うように見てみたり辺りを見回してみたものの、特に変な反応はされなかったし、これはセーフとして受け取っても大丈夫だろう。 「なら良いけど...」 「おう」 まだ心配してんな此奴... なんて思いながら近くにあったオレンジジュースを体内に流し込む。ガキの頃は馬鹿みたいにめっちゃ飲んでたからか、すこく懐かしい味がする。 これって実際に市販のスーパーに売ってる果物でも作れるのかな。 よし、今度作ろ。
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