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「生まれも育ちも日本? 両親も日本人?」
と海老名が質問すると、若者はうなずいた。
「四川省とは全く関係あるわけないよね?……で、住まいはどちら?」
「石神井公園の近くです」
「これは当たりですな」と丸出が喜んだ。「石神井といえば、埼玉の練馬区ですからな」
「練馬は東京だよ、おっさん」海老名があきれながら言った。「ま、確かに埼玉県に隣接してるけどな。でもハズレはハズレだ。だいたい、このハヤシ君が埼玉に住んでるという根拠は何だ?」
「埼玉は田んぼだらけの田舎ですからな。見てください、その靴、泥だらけじゃないですか」
「田んぼじゃなくたって雨に降られりゃ、どこでだって泥だらけになるわな。石神井あたりも雨が降ってたでしょ?」
「はい、僕が朝出かける時には降ってました」と若者は答えた。
「昼間は学校かどこかに通ってるの?」
「ええ、大学に通ってます」
「で、ここでの仕事は、夕方からの遅番かな?」
「そうです。ここへ来て制服に着替えてる最中に、あの大きな音が聞こえて……」
「それじゃ、上が制服で下が私服のジーパンなのも、そういう理由なんだ……ということだ、おっさん。別に服の好みがうるさいわけじゃないってさ」
海老名にそう言われて、丸出は悔しそうに歯嚙みを始めた。だが丸出もしつこく、
「でも一人暮らしは絶対正しいですぞ。エビちゃん同様に髪の毛ボサボサじゃないですか。周りで身だしなみを気にしてくれる人がいない、何よりの証拠です」
「あのさ、俺のことを『エビちゃん』なんて言うの、まずやめろ。まあ、俺の場合は当たりかもしれないが、彼の場合は違うと思うぞ。明らかにスプレーかなんかで固めて、わざとそういう髪型にしてると思うんだけどな……ところで君は一人暮らしなの?」
と海老名が聞くと、若者は、
「いえ、実家暮らしで、両親と妹がいます」
「ほら、これもハズレだ。いい加減に観念しろ、おっさん」
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