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▷ ▶︎ ▷    手掛かりは、彼奴しか持っていなかったのだと後々知った。  その一夜を得る事が叶わなかったのは、正直に言えば初めてだった。  昔から、俺の周りに居る女達は、俺のこの顔に群がって来て、それを来る者拒まず、去る者追わずと食い続けてきた。  そんな最中に芸能界にスカウトされて、活動を始めてみれば、瞬く間に売れた。自分が隠し持っていた才能に驚きを隠せず、調子に乗るのも時間の問題だったんだと思う。  初めてスカウト受けた事務所の先輩女優、初出演した朝ドラの清純派新人女優、歌手のミュージックビデオに出演すれば、そのボーカルとか。芸能界に居る女とは、お互い後腐れの無い様に身体を重ね、トラブルになる事は避けてきた。  表舞台じゃ硬派と称えられ、女性皆に優しい清純派として、世間に嘘を吐き続ける日々。  全部ウソ。俺のファンが作り上げた俺の姿。それは自分たちを“絶対に裏切らない”と思っているだろう。 『恋愛ですか?今は仕事が楽しいので、ファンの皆様にもっと喜んでいただける様な演技をしたいですね。』  雑誌のインタビュー、ドラマの番宣後の質問での当たり障りのない回答。ただちょっとだけ....嘘を吐くだけ。  ファン在りきの商売。ビジュアルの評価、それに伴った演技力が在れば、簡単に稼げる。  そして、女に不自由な想いはしたことが無い。俺の人生は全部上手く回っていたのだ。  そんなある日の事、腐れ縁の友人が運営するホテルでのパーティーに呼ばれた。   『山代さんですよね?今期のドラマ、主演おめでとうございます。』  どこかの会社の御令嬢だろうか、この会は謂わば財閥関連の祝賀会として、多くの著名人が参加していた。  そんな場所に俳優の【山代 千尋】として呼ばれたとなれば、俺の知名度が全国区に行き渡った事の証明となるのだろう。  辺りを見渡せば、知ってる顔触れ。金持ちと業界の人間が会場内で溢れ返る。  俺は歩く先々で、声を掛けられて、浮かれ酔っていた。 ――――でも、その女を視界に捉えた瞬間。周りの人間が霞み、見えなくなってしまっていた。  
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