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こ・れ・は、紛れもない誘拐じゃないか!!
後部座席の鍵を解除し開こうとも、中からは無理らしい。
無残にドアノブだけが動き、事の重大さに気付くのである。
「ちょっと聞いてる?」
前方を向けば、ハンドルを握る若めな男....いや、こいつもしかして「豪君!?」
「はい、そうで~す。お姉さん俺の事覚えててくれたんすね。一発やっときます?俺こう見えて、超ドエスナンデ」
何をするかは一応は、伏せてはいるが、魂胆は見え見え。語尾がソレっぽさを彷彿とさせる。
聴こえなかった振りをしようと思ったが、丁重に「遠慮しときます。」と断ってみると、豪君は「まあどっちみち今は無理か~」と軽快に笑い飛ばしていた。
てか、なんで昨日会ったばかりの男の子に誘拐されているのだろうか....。
左前....いや、私の真正面に座る男を見るが、いや、貴方天井に頭ぶつかってますやん!!と似非関西弁が出てしまうくらいに滑稽な姿。
そんな超高身長な男なんて....「嗚呼....彼奴か。」と、思い返してみれば、すぐさま昨晩のあの巨人を思い出してしまった。
「“兄ちゃん”女の子を運ぶ時はな、お姫様抱っこが鉄則なんだよ。」
「そうか。分かった。以後、気を付ける。」
「それと、―――――」
いやいや、何かの聞き間違えなのか?今、右から左へサーブされた二人称が、『兄ちゃん』って言わなかったか?
「――――分かった。でも豪は重い女を持つな。俺が代わりにやってやる。」
昨日は、ほぼほぼ喋らなかった筈のデカ男が、豪君の前だとペラペラと喋る。
なんだ。昨日の彼奴は幻か?それとも、今私が誘拐されている事こそが、夢なのだろうか....。
思わずほっぺを抓ってみたが、「痛っ。」
「ちょっとお姉さん。自傷行為なんか止めてよね~。只でさえ崩れてる顔面が、もっと崩壊するからサッ!」
バックミラー越しに豪と目が合えば、片手をハンドルから離して、手を振って愛想を振り撒いてきた。
サラッとディスられた気がするんだが....。まあ彼の言う通りかもしれない。
今の私って、化粧も落としてない寝起きの恰好だから。
「とりあえず、お姉さん臭うし、風呂入りに行くか。」
こうして訳も分からない誘拐が開幕したのであった。
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