05.

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 こ・れ・は、紛れもない誘拐(ピー)じゃないか!!  後部座席の鍵を解除し開こうとも、中からは無理らしい。  無残にドアノブだけが動き、事の重大さに気付くのである。 「ちょっと聞いてる?」  前方を向けば、ハンドルを握る若めな男....いや、こいつもしかして「豪君!?」 「はい、そうで~す。お姉さん俺の事覚えててくれたんすね。一発やっときます?俺こう見えて、超ドエスナンデ(・・・・・・)」  何をするかは一応は、伏せてはいるが、魂胆は見え見え。語尾がソレっぽさを彷彿とさせる。  聴こえなかった振りをしようと思ったが、丁重に「遠慮しときます。」と断ってみると、豪君は「まあどっちみち今は無理か~」と軽快に笑い飛ばしていた。    てか、なんで昨日会ったばかりの男の子に誘拐されているのだろうか....。  左前....いや、私の真正面に座る男を見るが、いや、貴方天井に頭ぶつかってますやん!!と似非関西弁が出てしまうくらいに滑稽な姿。  そんな超高身長な男なんて....「嗚呼....彼奴か。」と、思い返してみれば、すぐさま昨晩のあの巨人を思い出してしまった。 「“兄ちゃん”女の子を運ぶ時はな、お姫様抱っこが鉄則なんだよ。」 「そうか。分かった。以後、気を付ける。」 「それと、―――――」  いやいや、何かの聞き間違えなのか?今、右から左へサーブされた二人称が、『兄ちゃん』って言わなかったか?   「――――分かった。でも豪は重い女を持つな。俺が代わりにやってやる。」  昨日は、ほぼほぼ喋らなかった筈のデカ男が、豪君の前だとペラペラと喋る。  なんだ。昨日の彼奴は幻か?それとも、今私が誘拐されている事こそが、夢なのだろうか....。    思わずほっぺを抓ってみたが、「痛っ。」 「ちょっとお姉さん。自傷行為なんか止めてよね~。只でさえ崩れてる顔面が、もっと崩壊するからサッ!」  バックミラー越しに豪と目が合えば、片手をハンドルから離して、手を振って愛想を振り撒いてきた。  サラッとディスられた気がするんだが....。まあ彼の言う通りかもしれない。  今の私って、化粧も落としてない寝起きの恰好だから。 「とりあえず、お姉さん臭うし、風呂入りに行くか。」  こうして訳も分からない誘拐が開幕したのであった。
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