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ーーーー自分が場違いということは分かっていた。
『無理なお願いだとは分かってるけど....。』
困った様に眉を垂らしたのは、画面越しに映る従兄の姿。
お昼デリバリーのピザに貪りつきながら、気怠げに液晶画面を見つめると、大きな溜息を吐いていた。
思い出したくもない暗黒の学生時代の所為で、人と接する事が怖くなってしまった。だから私は、必要最低限の外出以外、家に引きこもる生活を送っていた。
最近は在宅ワークも主流なので、別に外部に出なくても何ら不自然ではなく。
『どうしても外せない用事があって....』
悪い!と勢い良く手を合わせた彼は、私よりもひと回りも歳上だがやり手社長なのである。
『流石に今回は参加しないとやばくて....』
『お兄ちゃん、私が人と会いたく無いの知ってるよね⁉︎』
『そ、そこを何とか....こんな事頼めるの瑞穂しか居なくて。』
恐らく色んな人に頼み込んだのであろう必死な姿を見せる従兄。
心底困った様に顔を顰めた従兄は、最後の頼みの綱にと選んだのは、引きこもりである私だった。
彼が頼みとは、今週末に著名人が数多く参加する大きなパーティーが開催されるらしいので、そこに代わりに出席してほしいというものだ。
自慢じゃないが、私は数年間まともに外出をしていない。
最近の外出はと言えば、数メートル先の収集場所にゴミを出したぐらいだ。
『送り迎え、着替えとかも全部手配するから。』
メインイベントが終われば、直ぐにでも帰って良いとのこと。
ただ参加したという証拠が欲しいだけ。
なにやら大手の会社社長様は、何かと忙しく大変みたいだ。
私はただ会場内に居るだけで、好きに飲み食いして過ごして良い。
たったのそれだけ。簡単だろ?って思ったでしょ。
....息が苦しくて、酷い目眩が襲う。
煌びやかな外の世界は、私には眩しすぎるのだ。
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