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約半月前、従兄弟の晃が差し向けた強烈な魔法使い【聖母マリア様】彼女....いや彼は、私の事を覚えていた。
とは、言うものの....
「あらやだっ、アンタまたボロ雑巾みたいな顔面ね。化粧水に絞った泥水でも使ってるの?ひっどい顔だわ。」
勝手に感動の再会だと思い込んでいた私が馬鹿みたいだ。
この男は、平気で人の顔面を貶す野郎だった。
「マリアこそ、顎から苔が生えてるわよ。男性ホルモン分泌し過ぎじゃないの?」
「うるっさいわね〜。私は心も身体も男よ?ただ....女の子に憧れを抱いているだけなの。髭が何だってのよ。良いじゃない。こんな私でもキュートでしょ?」
海外でしか売っていなさそうな派手な毛束の付け睫毛が羽ばたく。最低年齢アラフィフに見えるオッサン魔法使いは、私の肩を捕まえると、そのまま鏡台の前へと私を誘った。
「....お前等知り合いだったのか?」
私たちの絡み合いに引けを取っていた渡里が、唖然とした表情で立ち尽くしていた。
事の経緯元を辿れば、渡里のところのホテルでのパーティー。
まんまと物で釣られた私が、オカマにドレスアップされて、あれよあれよと会場に連れ去られた。
「そうよ?もうやる事はやった仲なの。」
「誤解を生む様な発言はよしてくれ。」
「あら、そう....?あんだけ根掘り葉掘り一から十まで改造したのは、あなたが初めてよ?晃ちゃんったら、私に頼んで正解よ〜。」
マシンガントークはお手の物。そんな最中に、タオルを巻いたり、汚らしい私の顔をコットンで拭き始めたマリアは、正真正銘のプロなのだと実感する。
ほんのり甘い香りがふわりと漂い、瞼を閉じながら徐々に眠気を誘われる。
うとうと、うとうと。睡眠不足がここに来て発揮し始めた。
「...ほ、みずほ....瑞穂。」
「は、はい!須坂瑞穂24歳独身....って、あれ?」
さっきまで居たサロンには居らず、気付けば仏様の運転する車内で目が覚めた。
夢から覚めた私が勢い良く体を起こすと、背後からクスクスとすすり笑う渡里の気配がする。
「お前、寝起きで自己紹介って....ないわ〜。」
奴のツボに嵌ったのだろうか、必死に堪えるが、目から涙がポロリと落ちた。
「さあ、もう着いたぜ?」
「ど、何処に⁉︎」
外はすっかり闇夜に染まり、今宵の宴が始まろうとしていた....。
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